GINAと共に
第194回(2022年8月) セックスパートナーの適正人数は?
「みなさん、セックスパートナーの数を制限してください!」と、もしも厚労大臣が国民へのメッセージとして記者会見で発表したとすれば、あなたはどのように感じるでしょうか。
日本を含む一夫一妻制の国では、結婚すればパートナーが一人であることが求められますし(既婚者と性交渉をもてば罪に問われる可能性があります)、未婚であったとしても複数のパートナーがいることを堂々と宣言している人はごく少数ですし、黙っているだけで実はこっそり......、という場合はそれなりにはあるでしょうが、それでも厚労大臣が国民に向けてメッセージを送らねばならないほど多くはないと考える人が多数ではないでしょうか。
ですが、これは米国CDC(疾病予防管理センター)が正式に表明している国民へのメッセージです。米国CDCだけではありません。WHO(世界保健機構)も世界中の市民に対して同じメッセージを発信しています。
これらのメッセージはモンキーポックス(サル痘)の感染を防ぐために当局が一般市民に宛てたものです。モンキーポックスを予防するための指針としてCDCが発表している内容をもう少し詳しくみてみましょう。
・感染の可能性を減らすためセックスパートナーの数を制限してください
・(バーなどにある)奥の部屋、サウナ、セックスを目的としたクラブ、プライベートおよびパブリックのセックスパーティなど、複数のパートナーと匿名で性的接触がもてる場所で感染しやすくなります
・コンドームは、肛門、口、陰茎、膣を保護できる場合がありますが、発疹は体の他の部分に発生することがありますから、コンドームだけでは防ぎきれません
・グローブ(手袋)は膣または肛門に指を挿入する際に有用ですが、全面を覆うように着用しなければならず、外すときには表面に触れないように慎重にしてください
・キスや唾液交換(exchanging spit)は避けてください
・他人と共に自慰行為をするときは距離を置いてお互いに触れないようにしてください
・対面での接触がないヴァーチャルセックスがお勧めです
・できるだけ肌と肌の接触を減らして、発疹のある部分を衣服で覆ったままセックスしてください。
これらがCDCのサイトに堂々と書かれていることに驚く人がいるかもしれません。ちなみに、「パブリックのセックスパーティ」というのは行政がセックスパーティを開いているという意味ではありません。おそらく「プライベートのセックスパーティ」は知り合いだけの"パーティ"で、「パブリックのセックスパーティ」はSNSなどで参加者を募集したものだと思います。
それにしても、セックスパートナーの人数を制限せよ、セックスパーティに参加するな、膣や肛門に指を入れるときはグローブを使え、唾液交換は避けよ、などなど、これを行政が発言するところに日本との違いを感じます。ちなみに日本の厚労省のサイトには「予防」として次の2つが書かれているだけです。
・天然痘ワクチンによって約85%発症予防効果があるとされている
・流行地では感受性のある動物や感染者との接触を避けることが大切である
セックスパートナーの人数の話をしましょう。CDCが国民に向けて勧告しなければならないほど米国では複数のセックスパートナーを持つのが一般的なのでしょうか。しかも「一人にしなさい」ではなく「制限しなさい(Limit your number of sex partners)」ですから3人以上のセックスパートナーがいることを前提としているようです。
実はこの答えは「主としてゲイに向けたメッセージ」だからです。要するに、ストレートに比べるとゲイはセックスパートナーをたくさん持っていることが多いのです。ただし、ここは解釈にちょっと注意が必要で、すべてのゲイの人たちが複数のパートナーを持っていたりセックスパーティを楽しんでいたりするわけではありません。ですから、「ゲイだから」という理由でセクシャルアクティビティが高いと決めつけるようなことは避けねばなりません。
ですが、私の経験上、それはGINAで関わった大勢のゲイも太融寺町谷口医院のゲイの患者さんも踏まえて、ゲイ及びバイセクシャルはストレートに比べて、少なくとも「平均セックスパートナー数」は圧倒的に多いと言えます。生涯パートナー、というか「生涯に性交渉を持った人数」でも圧倒的な差があります。ストレートの男性で、生涯で性行為を持った人数が100人を超える人はそう多くないと思います。ですが、ゲイの場合、すでに20代で経験人数1000人以上という人がザラにいます。ただし、繰り返しますがすべてのゲイではありません。互いに忠誠を誓い数年あるいは数十年にわたりパートナーは互いに一人だけ、というゲイカップルも少なくないことは忘れてはいけません。
周知のように、モンキーポックスは性的接触で簡単に感染します。クラブのダンスフロアで皮膚と皮膚が触れただけで感染した事例も報告されていることからも分かるように(イギリス人と米国人)、感染力は極めて強いと認識しなければなりません。
「セックスパートナーの適正人数は1人にすべきか複数持ってもよいのか」、についてはいろんな観点からの考察が必要となりますが、モンキーポックスの感染予防でいえば「少なければ少ないほど安全」ということになります。
そして、決してゲイだけが注意をすればいいわけではありません。これはクラブで肌が触れ合うだけでも感染するほど感染力が強いのだからストレートも日常生活での感染に気を付けるべき、という意味だけではありません。CDCの上記の勧告をよく読むと、「膣」という言葉も2回登場しています。セックスパートナーの人数を制限すべきなのはストレートでも同じだというわけです。
最後に、性感染症の患者さんを診察していて私がいつも感じていることを紹介しておきます。それは「性行為をもつ人数が多いほど性感染症のリスクが上昇するのは全体としては事実だが、個別にみるとそうでもない」ということです。相当ハイリスクな行為をとっているのに感染しない人もいれば、その逆に、例えば「生まれて初めてのオーラルセックスで感染したHIV陽性者」もいます。残念ながらこの患者さんとは連絡がつかなくなりました......。
「一度くらいはいいだろう......」そのような思いが悲劇につながり得ることは覚えておいた方がいいでしょう。
日本を含む一夫一妻制の国では、結婚すればパートナーが一人であることが求められますし(既婚者と性交渉をもてば罪に問われる可能性があります)、未婚であったとしても複数のパートナーがいることを堂々と宣言している人はごく少数ですし、黙っているだけで実はこっそり......、という場合はそれなりにはあるでしょうが、それでも厚労大臣が国民に向けてメッセージを送らねばならないほど多くはないと考える人が多数ではないでしょうか。
ですが、これは米国CDC(疾病予防管理センター)が正式に表明している国民へのメッセージです。米国CDCだけではありません。WHO(世界保健機構)も世界中の市民に対して同じメッセージを発信しています。
これらのメッセージはモンキーポックス(サル痘)の感染を防ぐために当局が一般市民に宛てたものです。モンキーポックスを予防するための指針としてCDCが発表している内容をもう少し詳しくみてみましょう。
・感染の可能性を減らすためセックスパートナーの数を制限してください
・(バーなどにある)奥の部屋、サウナ、セックスを目的としたクラブ、プライベートおよびパブリックのセックスパーティなど、複数のパートナーと匿名で性的接触がもてる場所で感染しやすくなります
・コンドームは、肛門、口、陰茎、膣を保護できる場合がありますが、発疹は体の他の部分に発生することがありますから、コンドームだけでは防ぎきれません
・グローブ(手袋)は膣または肛門に指を挿入する際に有用ですが、全面を覆うように着用しなければならず、外すときには表面に触れないように慎重にしてください
・キスや唾液交換(exchanging spit)は避けてください
・他人と共に自慰行為をするときは距離を置いてお互いに触れないようにしてください
・対面での接触がないヴァーチャルセックスがお勧めです
・できるだけ肌と肌の接触を減らして、発疹のある部分を衣服で覆ったままセックスしてください。
これらがCDCのサイトに堂々と書かれていることに驚く人がいるかもしれません。ちなみに、「パブリックのセックスパーティ」というのは行政がセックスパーティを開いているという意味ではありません。おそらく「プライベートのセックスパーティ」は知り合いだけの"パーティ"で、「パブリックのセックスパーティ」はSNSなどで参加者を募集したものだと思います。
それにしても、セックスパートナーの人数を制限せよ、セックスパーティに参加するな、膣や肛門に指を入れるときはグローブを使え、唾液交換は避けよ、などなど、これを行政が発言するところに日本との違いを感じます。ちなみに日本の厚労省のサイトには「予防」として次の2つが書かれているだけです。
・天然痘ワクチンによって約85%発症予防効果があるとされている
・流行地では感受性のある動物や感染者との接触を避けることが大切である
セックスパートナーの人数の話をしましょう。CDCが国民に向けて勧告しなければならないほど米国では複数のセックスパートナーを持つのが一般的なのでしょうか。しかも「一人にしなさい」ではなく「制限しなさい(Limit your number of sex partners)」ですから3人以上のセックスパートナーがいることを前提としているようです。
実はこの答えは「主としてゲイに向けたメッセージ」だからです。要するに、ストレートに比べるとゲイはセックスパートナーをたくさん持っていることが多いのです。ただし、ここは解釈にちょっと注意が必要で、すべてのゲイの人たちが複数のパートナーを持っていたりセックスパーティを楽しんでいたりするわけではありません。ですから、「ゲイだから」という理由でセクシャルアクティビティが高いと決めつけるようなことは避けねばなりません。
ですが、私の経験上、それはGINAで関わった大勢のゲイも太融寺町谷口医院のゲイの患者さんも踏まえて、ゲイ及びバイセクシャルはストレートに比べて、少なくとも「平均セックスパートナー数」は圧倒的に多いと言えます。生涯パートナー、というか「生涯に性交渉を持った人数」でも圧倒的な差があります。ストレートの男性で、生涯で性行為を持った人数が100人を超える人はそう多くないと思います。ですが、ゲイの場合、すでに20代で経験人数1000人以上という人がザラにいます。ただし、繰り返しますがすべてのゲイではありません。互いに忠誠を誓い数年あるいは数十年にわたりパートナーは互いに一人だけ、というゲイカップルも少なくないことは忘れてはいけません。
周知のように、モンキーポックスは性的接触で簡単に感染します。クラブのダンスフロアで皮膚と皮膚が触れただけで感染した事例も報告されていることからも分かるように(イギリス人と米国人)、感染力は極めて強いと認識しなければなりません。
「セックスパートナーの適正人数は1人にすべきか複数持ってもよいのか」、についてはいろんな観点からの考察が必要となりますが、モンキーポックスの感染予防でいえば「少なければ少ないほど安全」ということになります。
そして、決してゲイだけが注意をすればいいわけではありません。これはクラブで肌が触れ合うだけでも感染するほど感染力が強いのだからストレートも日常生活での感染に気を付けるべき、という意味だけではありません。CDCの上記の勧告をよく読むと、「膣」という言葉も2回登場しています。セックスパートナーの人数を制限すべきなのはストレートでも同じだというわけです。
最後に、性感染症の患者さんを診察していて私がいつも感じていることを紹介しておきます。それは「性行為をもつ人数が多いほど性感染症のリスクが上昇するのは全体としては事実だが、個別にみるとそうでもない」ということです。相当ハイリスクな行為をとっているのに感染しない人もいれば、その逆に、例えば「生まれて初めてのオーラルセックスで感染したHIV陽性者」もいます。残念ながらこの患者さんとは連絡がつかなくなりました......。
「一度くらいはいいだろう......」そのような思いが悲劇につながり得ることは覚えておいた方がいいでしょう。