GINAと共に
第162回(2019年12月) 日本エイズ学会に行こう
2019年11月28日、熊本市で開催された日本エイズ学会の学術大会で私は12年ぶりに同学会での発表をおこないました。医師であれば、定期的に何らかの学会発表をする義務があるわけですが、「忙しい」という言い訳をしながら最小限の発表しかしていないのが私の実情です......。
そんななか、日本エイズ学会で重い腰を上げて発表しようと思った理由が「HIV/AIDSという疾患は一般社会で理解されていなだけでなく、我々医療者のなかでも十分に知られていない」という思いがあり、それが次第に強くなってきているからです。苛立たしいというか腹立たしいというか、「今さら何を言っているの?」「なんでそんなこと言うの?」と、一般社会に対してだけでなく医療者にさえ感じざるをえないことがHIV/AIDSについては多数あるわけです。
今回我々が伝えたかったのは「HIVはとても身近な疾患であり、エイズ専門医でなく医療者なら誰もが診なければならない」ということであり、ポイントを2つに絞って発表しました。1つは「HIV感染を見つけるのはエイズ拠点病院ではなくクリニックであること」、もうひとつは「エイズ専門医がおこなう治療は抗HIV薬の選定や重症化したときのフォローが中心であり、日ごろのプライマリ・ケア(総合診療)はクリニックがおこなうべきであること」です。
こういったことはエイズ学会よりも他の学会で発表すべき(実際、そういう発表もしています)なのですが、まずは"同志"であるエイズ学会に参加している人たちに我々が取り組んでいることを知ってもらいたかったというわけです。
私が発表したポイントを掘り下げてここで紹介してもいいのですが、今回このコラムでお伝えしたいのはその内容ではなく、日本エイズ学会という学会の「特徴」です。
私は現在10以上の学会に所属していて、時間が許せば年に一度開催される「学術大会」に参加しています。また、小さな学会や研究会も全国各地で開催されるので月に2~3回はいろんな学会(学術大会)に参加しています。そして、それらいろんな学会の特徴を比較してみると日本エイズ学会は"異色"なのです。たいていの学会は参加者は医師だけであり、他職種や医学生が参加することはあまりありません。若い医師も参加しますが、発表するのはたいていベテランの中高齢の、そして大半は男性の医師です。
ところが日本エイズ学会の学術大会に参加しているのは、職種でみればおそらく医師が最多であるとは思うのですが、歯科医師、看護師、薬剤師、理学療法士、臨床工学技士など他職種も多く、ソーシャルワーカーもかなり大勢来ています。看護学生や医学生も参加しています(学生の参加は以前よりは減っているような気もしますが)。社会活動をしている人やNPO・NGOの参加も目立ちます。sex workerの団体が発表をし、sex workerがフロアから質問や意見を述べる光景というのは他の学会ではまずありません。(これは私見ですが)この点、同じようなテーマを扱う日本性感染症学会の参加者の大半は医師であり、日本エイズ学会とは雰囲気が異なります。
また、日本エイズ学会では患者が登壇し話をします。これは(個人的には)この学会の最大の特徴だと思います。そして、このセッションが(これも私見ですが)一番盛り上がり感動するのです(学会に「感動を求めるな」という声はあるでしょうが)。
私は医学生や研修医から学会参加について意見を求められると、「最もお勧めなのは日本エイズ学会」と話しています。これだけワクワクする学会は他にはないからです。もっとも、すべての医師が私と同じように考えているわけではなく「あんなのは学会とは呼ばない。学会はもっと厳粛であるべきだ」と話す医師がいるのも事実です。
このあたりは医師の考えによると思いますし、私はそのような医師に反論するつもりはありません。ただ、日本エイズ学会のように、医師以外の医療者のみならず、非医療者や患者の参加者も多く、患者が話すセッションが注目される学会もあるんだ、ということは多くの人に知ってもらいたいと考えています。
このサイトを開設したのは2006年ですからはや13年以上がたちます。この間に千人近くの方々からメールをいただきました。比較的多いのがHIV陽性の人たちを支援している人、あるいはこれから支援やボランティアをしようとしている人たちからの相談や質問のメールです。HIV陽性の人からの相談メールも少なくありません。なかには「HIVに感染したかもしれないがどうしたらいいか」という相談も寄せられます。医療者からのメールもあります。GINAを運営していて感じるのは「様々な立場の人が様々なことを考え悩んでいる」ということです。
そして、エイズ学会が他の学会にない盛り上がりを見せる最大の理由がここにあるのではないか、つまり「異なる立場の人々が同じ思いを持っているから」ではないかと私は考えています。医師、歯科医師、看護師、介護師、ソーシャルワーカー、支援団体、ボランティア、sex worker、HIV陽性者では立場がまったく異なり、考えていること、悩んでいることもバラバラです。ですが、HIV感染を減らさなければならない、感染者が差別を受けてはならない、世間にはびこっている偏見やスティグマに立ち向かっていかねばならない、という気持ちは共通しています。こういった共通している思いがあるからこそ他の学会にはない盛り上がりがあるのだと思います。
ところでこれを読まれているあなたはどのような立場の方でしょうか。医療者であったとしてもなかったとしても、HIV陽性であったとしてもなかったとしても、あるいは単に自分自身が「HIVにかかっていたらどうしよう」と考えているだけの人も、エイズ学会への参加を考えてみてはどうでしょうか。参加費は事前登録でも一般(学生以外全員)10,000円、学生5,000円(2019年の場合)と決して安くはありませんし、宿泊費や交通費も用意せねばなりませんから気軽に参加とはいかないかもしれませんが、そのお金と時間に見合うものがきっと得られると思います。ちなみに、私が院長を務める太融寺町谷口医院では慰安旅行も兼ねて今年は熊本に2泊3日で学会に参加しました。
来年(2020年)の日本エイズ学会は11月27~28日(金・土)に幕張で開催されると聞いています(確定かどうかは未確認)。興味のある方は是非とも検討してみてください。
そして、もうひとつHIV/AIDSに興味のある方にお勧めしたいものがあります。それはメーリングリストです。学会と同じように、医療のメーリングリストというのもたいていは医師のみあるいは医療者のみが参加するものなのですが、HIV/AIDSのメーリングリストは特に参加資格が設けられていません。このメーリングリストは医師である高田昇先生が管理されています。関心のある方はこちらを参照してみてください。
改めて考えてみると、医療の主役は患者であるべきであり、最近は多くの疾患でこのことが強調されています。患者を中心に、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士などがいわばひとつのチームのようになり疾患に向き合っていこうとする考えです。しかし、そうは言っても医師以外の医療者が、まして患者や患者を支援する団体が参加している学会というのは稀です。
先述したように「こんなの学会じゃない」という医師がいるのは事実ですが、日本エイズ学会のこの雰囲気と感動を多くの医師のみならず医師以外の医療者にも、HIV陽性者や陽性者を支援する人たちにも、さらにHIV/AIDSに少しでも関心のある人たちにも伝えていきたい、と考えています。
そんななか、日本エイズ学会で重い腰を上げて発表しようと思った理由が「HIV/AIDSという疾患は一般社会で理解されていなだけでなく、我々医療者のなかでも十分に知られていない」という思いがあり、それが次第に強くなってきているからです。苛立たしいというか腹立たしいというか、「今さら何を言っているの?」「なんでそんなこと言うの?」と、一般社会に対してだけでなく医療者にさえ感じざるをえないことがHIV/AIDSについては多数あるわけです。
今回我々が伝えたかったのは「HIVはとても身近な疾患であり、エイズ専門医でなく医療者なら誰もが診なければならない」ということであり、ポイントを2つに絞って発表しました。1つは「HIV感染を見つけるのはエイズ拠点病院ではなくクリニックであること」、もうひとつは「エイズ専門医がおこなう治療は抗HIV薬の選定や重症化したときのフォローが中心であり、日ごろのプライマリ・ケア(総合診療)はクリニックがおこなうべきであること」です。
こういったことはエイズ学会よりも他の学会で発表すべき(実際、そういう発表もしています)なのですが、まずは"同志"であるエイズ学会に参加している人たちに我々が取り組んでいることを知ってもらいたかったというわけです。
私が発表したポイントを掘り下げてここで紹介してもいいのですが、今回このコラムでお伝えしたいのはその内容ではなく、日本エイズ学会という学会の「特徴」です。
私は現在10以上の学会に所属していて、時間が許せば年に一度開催される「学術大会」に参加しています。また、小さな学会や研究会も全国各地で開催されるので月に2~3回はいろんな学会(学術大会)に参加しています。そして、それらいろんな学会の特徴を比較してみると日本エイズ学会は"異色"なのです。たいていの学会は参加者は医師だけであり、他職種や医学生が参加することはあまりありません。若い医師も参加しますが、発表するのはたいていベテランの中高齢の、そして大半は男性の医師です。
ところが日本エイズ学会の学術大会に参加しているのは、職種でみればおそらく医師が最多であるとは思うのですが、歯科医師、看護師、薬剤師、理学療法士、臨床工学技士など他職種も多く、ソーシャルワーカーもかなり大勢来ています。看護学生や医学生も参加しています(学生の参加は以前よりは減っているような気もしますが)。社会活動をしている人やNPO・NGOの参加も目立ちます。sex workerの団体が発表をし、sex workerがフロアから質問や意見を述べる光景というのは他の学会ではまずありません。(これは私見ですが)この点、同じようなテーマを扱う日本性感染症学会の参加者の大半は医師であり、日本エイズ学会とは雰囲気が異なります。
また、日本エイズ学会では患者が登壇し話をします。これは(個人的には)この学会の最大の特徴だと思います。そして、このセッションが(これも私見ですが)一番盛り上がり感動するのです(学会に「感動を求めるな」という声はあるでしょうが)。
私は医学生や研修医から学会参加について意見を求められると、「最もお勧めなのは日本エイズ学会」と話しています。これだけワクワクする学会は他にはないからです。もっとも、すべての医師が私と同じように考えているわけではなく「あんなのは学会とは呼ばない。学会はもっと厳粛であるべきだ」と話す医師がいるのも事実です。
このあたりは医師の考えによると思いますし、私はそのような医師に反論するつもりはありません。ただ、日本エイズ学会のように、医師以外の医療者のみならず、非医療者や患者の参加者も多く、患者が話すセッションが注目される学会もあるんだ、ということは多くの人に知ってもらいたいと考えています。
このサイトを開設したのは2006年ですからはや13年以上がたちます。この間に千人近くの方々からメールをいただきました。比較的多いのがHIV陽性の人たちを支援している人、あるいはこれから支援やボランティアをしようとしている人たちからの相談や質問のメールです。HIV陽性の人からの相談メールも少なくありません。なかには「HIVに感染したかもしれないがどうしたらいいか」という相談も寄せられます。医療者からのメールもあります。GINAを運営していて感じるのは「様々な立場の人が様々なことを考え悩んでいる」ということです。
そして、エイズ学会が他の学会にない盛り上がりを見せる最大の理由がここにあるのではないか、つまり「異なる立場の人々が同じ思いを持っているから」ではないかと私は考えています。医師、歯科医師、看護師、介護師、ソーシャルワーカー、支援団体、ボランティア、sex worker、HIV陽性者では立場がまったく異なり、考えていること、悩んでいることもバラバラです。ですが、HIV感染を減らさなければならない、感染者が差別を受けてはならない、世間にはびこっている偏見やスティグマに立ち向かっていかねばならない、という気持ちは共通しています。こういった共通している思いがあるからこそ他の学会にはない盛り上がりがあるのだと思います。
ところでこれを読まれているあなたはどのような立場の方でしょうか。医療者であったとしてもなかったとしても、HIV陽性であったとしてもなかったとしても、あるいは単に自分自身が「HIVにかかっていたらどうしよう」と考えているだけの人も、エイズ学会への参加を考えてみてはどうでしょうか。参加費は事前登録でも一般(学生以外全員)10,000円、学生5,000円(2019年の場合)と決して安くはありませんし、宿泊費や交通費も用意せねばなりませんから気軽に参加とはいかないかもしれませんが、そのお金と時間に見合うものがきっと得られると思います。ちなみに、私が院長を務める太融寺町谷口医院では慰安旅行も兼ねて今年は熊本に2泊3日で学会に参加しました。
来年(2020年)の日本エイズ学会は11月27~28日(金・土)に幕張で開催されると聞いています(確定かどうかは未確認)。興味のある方は是非とも検討してみてください。
そして、もうひとつHIV/AIDSに興味のある方にお勧めしたいものがあります。それはメーリングリストです。学会と同じように、医療のメーリングリストというのもたいていは医師のみあるいは医療者のみが参加するものなのですが、HIV/AIDSのメーリングリストは特に参加資格が設けられていません。このメーリングリストは医師である高田昇先生が管理されています。関心のある方はこちらを参照してみてください。
改めて考えてみると、医療の主役は患者であるべきであり、最近は多くの疾患でこのことが強調されています。患者を中心に、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士などがいわばひとつのチームのようになり疾患に向き合っていこうとする考えです。しかし、そうは言っても医師以外の医療者が、まして患者や患者を支援する団体が参加している学会というのは稀です。
先述したように「こんなの学会じゃない」という医師がいるのは事実ですが、日本エイズ学会のこの雰囲気と感動を多くの医師のみならず医師以外の医療者にも、HIV陽性者や陽性者を支援する人たちにも、さらにHIV/AIDSに少しでも関心のある人たちにも伝えていきたい、と考えています。