GINAと共に
第109回(2015年7月) 日本のおじさんが同性愛者を嫌う理由
『GINAと共に』はこのところ同性愛についての内容が増えていて、別の分野で書きたいこともいろいろとあるのですが、同性愛関連で最近新たに書き留めておきたいことがいくつか報道されたこともあり、今回も同性愛の話題とすることにしました。
LGBTという言葉がここ数年メジャーになってきたという話を以前したことがあります。この言葉は今や立派な市民権を得ていると言っていいと思いますが、最近は若い世代から「セクマイ」という言葉が聞かれるようになってきました。
さすがは日本の若者たち・・・。言葉を略すのは彼(女)らの得意とするところですが、セクマイというこの言葉、単にセクシャル・マイノリティを略しただけではありません。「LGBT」よりも単語の響きがいいというかリズムがあるというか、何よりも「LGBT」よりも「セクマイ」の方が覚えやすく心に残りやすい感じがします。あと数年もするとセクマイの方が一般的な表現になるのではないかと私はみています(ただし現時点ではこのサイトでは「LGBT」で統一したいと思います)。
LGBTを積極的に採用する企業が増えてきています。外資系の企業が多いようですが、日本の企業でも増加傾向にあるのは間違いありません。LGBTを支援するNPO法人「Re:Bit」は「LGBT就活」というウェブサイトを立ち上げ、LGBTの人たちの就職支援をしています(注1)。就職を希望しているLGBTの人たちも、LGBTを募集している企業も利用しやすくなっています。
世界に目を向けてみましょう。ヨーロッパでは、2015年5月15日、ルクセンブルクのグザヴィエ・ベッテル首相が男性パートナーと結婚し世界中で報道されました。ルクセンブルクではこれまでは法的には同性婚が認められておらず、2015年1月にようやく合法化されました。ベッテル首相は首相の前は市長をしていましたが、そのときから同性愛者であることをカムアウトしていました。
ちなみに、ヨーロッパでは、アイスランドの元首相ヨハンナ・シグルザルドッティル氏(女性)が、首相だった2010年6月27日に女性パートナーと入籍しました。この日はアイスランドで同性婚が合法化された記念すべき日です(尚、シグルザルドッティル氏は政権交代により2013年5月に首相を退陣しています)。
アメリカでも大きな動きがありました。2015年6月26日、米連邦最高裁は、全米のすべての州で同性婚を合法化するという判決を下しました。米国では、2014年10月に、同性婚を禁じるユタ州などの法律を「無効」とした高裁判決を支持するとの判決を下しており、これで事実上は同性婚が合法化されたとみなされましたが、一部の州では結婚証明書の発行がおこなわれていませんでした。今回の最高裁の判決で同性婚が合法であると"はっきりと"断言されましたから、一部の州で例外があるといったようなことが今後はなくなります。
一部の共和党などの保守派の政治家は最高裁のこの判決に不服を漏らしているようで、次回の大統領選の際にも争点のひとつになるかもしれません。しかし、現職のオバマ大統領や次期大統領候補のクリントン氏も同性婚に賛成であることを表明していますし、世論が同性愛に賛成するようになってきています。次期大統領選で共和党が勝ったとしても同性愛合法化が白紙に戻される可能性は極めて低いと思われます。
政治的な観点からみると、欧米ではこのように政治レベルでLGBTの人権を擁護するような動きが広がっています。
翻って日本の政治をみてみると、またもや時代錯誤な発言が市議会で飛び出しました。しかも何の因縁なのか、今回も兵庫県です。
2015年6月24日、兵庫県宝塚市議会でLGBTの支援についての検討がおこなわれていたとき、自民党の大河内茂太市議会議員が一般質問に立ち、「宝塚に同性愛者が集まり、HIV感染の中心になったらどうするのか、という議論が市民から出る」と発言したそうです。さすがに、この発言はその場の空気を凍らせたようで、2015年6月25日の朝日新聞デジタルによると、議事を一時中断したそうです。
兵庫県といえば、2014年5月に県議会常任委員会で県議会議員が「行政がホモの指導をする必要がない」という発言をおこない物議を醸しました。
また、2005年11月には、神戸市長田区の市立中学校で区役所の職員(医師)が非常識な発言をおこない問題となりました。2006年4月1日の毎日新聞は、この職員が「エイズになれば、自覚症状がないまま他人にうつす恐れがあるので、(患者は)早く死んでしまえばいい」、と授業で生徒に話した、と報じました。
私がこのニュースを見たとき、「いくらなんでもこんなことを言う職員はいない。ましてこの職員は医師であるわけで、こんなことは考えられない。これは毎日新聞の誤報だ」、と思いました。しかしこの職員は生徒にショックを与えたという理由で3ヶ月間減給(10分の1)にされています。これは公表された事実ですから、誤解があったにせよ、この職員の発言には問題があったと言わざるを得ません。
話を宝塚の市議会議員の発言に戻します。朝日新聞デジタルによりますと、この市議会議員は次のように発言しているそうです。
「女子校や男子校などでは同性カップルが多い。環境によって後天的に同性愛者になる。(中略)差別する意図はなく、発言を取り消すつもりはない。LGBTへの支援は必要だが、同性婚容認につながる条例制定に反対する立場から発言した」
「環境によって後天的に同性愛者になる」というのは医学的に問題のある発言ですが、これについては今回の趣旨と異なるために言及を避けます。今回取り上げたいのは「同性婚容認につながる条例制定に反対する」ということです。
なぜこのような意見がでてくるのでしょうか。欧米で同性婚に反対する意見が出るのは理解できることです。なぜならキリスト教もユダヤ教もイスラム教も教義で同性婚を禁じているからです。敬虔な信者であればあるほど同性婚を認められない気持ちになるのです。ですから、キリスト教、ユダヤ教の信者が多い欧米の国々で同性婚が合法化されるというのは大変意味深いことなのです。尚、イスラム教徒がマジョリティの国では同性婚は依然禁止で、なかには死刑となる国すらあります。
翻って日本をみてみましょう。日本人には敬虔なクリスチャンはそう多くありませんし、伝統的に日本では男娼が公然と存在していました。つまり宗教的にも歴史的にも同性愛を日本で禁じる理屈が見当たらないのです。
渋谷区の区議会での採決の際もパートナーシップ制度に反対したのは自民党を中心とした保守派の議員と報じられています。保守=国粋主義とはいえないかもしれませんが、日本の最も著名な国粋主義者のひとりに三島由紀夫がいます。そして三島由紀夫が同性愛者であったことは公然とした事実と言っていいでしょう。
ではなぜ日本の保守派は同性愛を認めないのでしょう。ここで私の仮説を紹介したいと思います。同性愛に反対する日本人は中年以降の男性が大半を占めると思われます。女性で「同性愛断固反対」と言っている人はあまり見たことがありませんし(自民党の女性議員に意見を聞いてみたいものです)、若い世代にもあまり見当たりません。先に紹介した「LGBT就活」に反対する若者の話など聞いたことがありません。
では、なぜ同性愛反対者は中年以降のおじさんに限定されるのか。誤解を恐れずに言えば、「このようなおじさんたちは本当は同性愛者がうらやましい」のではないかと私には思えるのです。
同性愛者がすべて性愛に満足しているとは言いません。むしろ同性愛者に対してもカムアウトできないLGBTの人たちも少なくなく、生涯にわたり性愛のことで悩み続けているという人も大勢います。しかしその一方で性を満喫している人もいます。ストレートの男性で(特に同性愛に反対するおじさんたちで)「セックスに困ったことがない」という人はそう多くはないのではないでしょうか。一方、LGBT、特にゲイの一部の人たちは、次々に新しいパートナーが現れ、過去に千人以上と経験がある、などという人も珍しくありません(人数が多ければ幸せというわけではありませんが)。
つまり性を満喫している(ようにみえる)ゲイたちがうらやましいが故に、LGBTが求めている同性婚やパートナーシップの制度に反対しているのではないか。これが私の仮説です。穿った見方のように聞こえるかもしれませんが、今のところ、同性婚に反対する理由で合理的なものは他に思いつきません。
注1:「LGBT就活」は下記URLを参照ください。
http://www.lgbtcareer.org/
参考:GINAと共に
第106回(2015年4月)「LGBTに対する日米の動き」
第102回(2014年12月)「2015年はLGBTが一気にメジャーに」
など
LGBTという言葉がここ数年メジャーになってきたという話を以前したことがあります。この言葉は今や立派な市民権を得ていると言っていいと思いますが、最近は若い世代から「セクマイ」という言葉が聞かれるようになってきました。
さすがは日本の若者たち・・・。言葉を略すのは彼(女)らの得意とするところですが、セクマイというこの言葉、単にセクシャル・マイノリティを略しただけではありません。「LGBT」よりも単語の響きがいいというかリズムがあるというか、何よりも「LGBT」よりも「セクマイ」の方が覚えやすく心に残りやすい感じがします。あと数年もするとセクマイの方が一般的な表現になるのではないかと私はみています(ただし現時点ではこのサイトでは「LGBT」で統一したいと思います)。
LGBTを積極的に採用する企業が増えてきています。外資系の企業が多いようですが、日本の企業でも増加傾向にあるのは間違いありません。LGBTを支援するNPO法人「Re:Bit」は「LGBT就活」というウェブサイトを立ち上げ、LGBTの人たちの就職支援をしています(注1)。就職を希望しているLGBTの人たちも、LGBTを募集している企業も利用しやすくなっています。
世界に目を向けてみましょう。ヨーロッパでは、2015年5月15日、ルクセンブルクのグザヴィエ・ベッテル首相が男性パートナーと結婚し世界中で報道されました。ルクセンブルクではこれまでは法的には同性婚が認められておらず、2015年1月にようやく合法化されました。ベッテル首相は首相の前は市長をしていましたが、そのときから同性愛者であることをカムアウトしていました。
ちなみに、ヨーロッパでは、アイスランドの元首相ヨハンナ・シグルザルドッティル氏(女性)が、首相だった2010年6月27日に女性パートナーと入籍しました。この日はアイスランドで同性婚が合法化された記念すべき日です(尚、シグルザルドッティル氏は政権交代により2013年5月に首相を退陣しています)。
アメリカでも大きな動きがありました。2015年6月26日、米連邦最高裁は、全米のすべての州で同性婚を合法化するという判決を下しました。米国では、2014年10月に、同性婚を禁じるユタ州などの法律を「無効」とした高裁判決を支持するとの判決を下しており、これで事実上は同性婚が合法化されたとみなされましたが、一部の州では結婚証明書の発行がおこなわれていませんでした。今回の最高裁の判決で同性婚が合法であると"はっきりと"断言されましたから、一部の州で例外があるといったようなことが今後はなくなります。
一部の共和党などの保守派の政治家は最高裁のこの判決に不服を漏らしているようで、次回の大統領選の際にも争点のひとつになるかもしれません。しかし、現職のオバマ大統領や次期大統領候補のクリントン氏も同性婚に賛成であることを表明していますし、世論が同性愛に賛成するようになってきています。次期大統領選で共和党が勝ったとしても同性愛合法化が白紙に戻される可能性は極めて低いと思われます。
政治的な観点からみると、欧米ではこのように政治レベルでLGBTの人権を擁護するような動きが広がっています。
翻って日本の政治をみてみると、またもや時代錯誤な発言が市議会で飛び出しました。しかも何の因縁なのか、今回も兵庫県です。
2015年6月24日、兵庫県宝塚市議会でLGBTの支援についての検討がおこなわれていたとき、自民党の大河内茂太市議会議員が一般質問に立ち、「宝塚に同性愛者が集まり、HIV感染の中心になったらどうするのか、という議論が市民から出る」と発言したそうです。さすがに、この発言はその場の空気を凍らせたようで、2015年6月25日の朝日新聞デジタルによると、議事を一時中断したそうです。
兵庫県といえば、2014年5月に県議会常任委員会で県議会議員が「行政がホモの指導をする必要がない」という発言をおこない物議を醸しました。
また、2005年11月には、神戸市長田区の市立中学校で区役所の職員(医師)が非常識な発言をおこない問題となりました。2006年4月1日の毎日新聞は、この職員が「エイズになれば、自覚症状がないまま他人にうつす恐れがあるので、(患者は)早く死んでしまえばいい」、と授業で生徒に話した、と報じました。
私がこのニュースを見たとき、「いくらなんでもこんなことを言う職員はいない。ましてこの職員は医師であるわけで、こんなことは考えられない。これは毎日新聞の誤報だ」、と思いました。しかしこの職員は生徒にショックを与えたという理由で3ヶ月間減給(10分の1)にされています。これは公表された事実ですから、誤解があったにせよ、この職員の発言には問題があったと言わざるを得ません。
話を宝塚の市議会議員の発言に戻します。朝日新聞デジタルによりますと、この市議会議員は次のように発言しているそうです。
「女子校や男子校などでは同性カップルが多い。環境によって後天的に同性愛者になる。(中略)差別する意図はなく、発言を取り消すつもりはない。LGBTへの支援は必要だが、同性婚容認につながる条例制定に反対する立場から発言した」
「環境によって後天的に同性愛者になる」というのは医学的に問題のある発言ですが、これについては今回の趣旨と異なるために言及を避けます。今回取り上げたいのは「同性婚容認につながる条例制定に反対する」ということです。
なぜこのような意見がでてくるのでしょうか。欧米で同性婚に反対する意見が出るのは理解できることです。なぜならキリスト教もユダヤ教もイスラム教も教義で同性婚を禁じているからです。敬虔な信者であればあるほど同性婚を認められない気持ちになるのです。ですから、キリスト教、ユダヤ教の信者が多い欧米の国々で同性婚が合法化されるというのは大変意味深いことなのです。尚、イスラム教徒がマジョリティの国では同性婚は依然禁止で、なかには死刑となる国すらあります。
翻って日本をみてみましょう。日本人には敬虔なクリスチャンはそう多くありませんし、伝統的に日本では男娼が公然と存在していました。つまり宗教的にも歴史的にも同性愛を日本で禁じる理屈が見当たらないのです。
渋谷区の区議会での採決の際もパートナーシップ制度に反対したのは自民党を中心とした保守派の議員と報じられています。保守=国粋主義とはいえないかもしれませんが、日本の最も著名な国粋主義者のひとりに三島由紀夫がいます。そして三島由紀夫が同性愛者であったことは公然とした事実と言っていいでしょう。
ではなぜ日本の保守派は同性愛を認めないのでしょう。ここで私の仮説を紹介したいと思います。同性愛に反対する日本人は中年以降の男性が大半を占めると思われます。女性で「同性愛断固反対」と言っている人はあまり見たことがありませんし(自民党の女性議員に意見を聞いてみたいものです)、若い世代にもあまり見当たりません。先に紹介した「LGBT就活」に反対する若者の話など聞いたことがありません。
では、なぜ同性愛反対者は中年以降のおじさんに限定されるのか。誤解を恐れずに言えば、「このようなおじさんたちは本当は同性愛者がうらやましい」のではないかと私には思えるのです。
同性愛者がすべて性愛に満足しているとは言いません。むしろ同性愛者に対してもカムアウトできないLGBTの人たちも少なくなく、生涯にわたり性愛のことで悩み続けているという人も大勢います。しかしその一方で性を満喫している人もいます。ストレートの男性で(特に同性愛に反対するおじさんたちで)「セックスに困ったことがない」という人はそう多くはないのではないでしょうか。一方、LGBT、特にゲイの一部の人たちは、次々に新しいパートナーが現れ、過去に千人以上と経験がある、などという人も珍しくありません(人数が多ければ幸せというわけではありませんが)。
つまり性を満喫している(ようにみえる)ゲイたちがうらやましいが故に、LGBTが求めている同性婚やパートナーシップの制度に反対しているのではないか。これが私の仮説です。穿った見方のように聞こえるかもしれませんが、今のところ、同性婚に反対する理由で合理的なものは他に思いつきません。
注1:「LGBT就活」は下記URLを参照ください。
http://www.lgbtcareer.org/
参考:GINAと共に
第106回(2015年4月)「LGBTに対する日米の動き」
第102回(2014年12月)「2015年はLGBTが一気にメジャーに」
など