HIV/AIDS関連情報
2006年6月23日(金) 恋人にHIVをうつした女性が禁固刑に
The Independent(online edition) 6月22日号によりますと、UKの43歳の女性が、自分の恋人(31歳)に故意にHIVを感染させた罪で、32ヶ月間の禁固刑を科せられました。
ヘアーサロンの受付をしているこの女性は、これまでに4人の男性に対して自分がHIV陽性であることを隠して、コンドームを用いない性交渉(unprotected sex)をおこなったそうです。
そのうちのひとりの31歳の男性がHIVに感染したわけですが、これが発覚したのは、その4人の男性のうちのひとりである36歳の別の男性が、コンドームを用いない性交渉をした後に、彼女がHIV陽性であることを告げたために、警察に事情を話したことがきっかけとなりました。
警察がこの女性の家宅捜査をおこない、そこから4人の男性と付き合いがあったことが発覚し、4人のうち1人の男性がHIVに感染していることが分かりました。この男性はこの女性と2001年から2年間の付き合いをしていたそうです。自身がHIVを彼女からうつされたことを知った直後は、精神的に不安定になり、自殺まで試みたそうです。
UKでは昨年(2005年)にも似たような事件がありました。15歳のときにHIVに感染した女性が、20歳のときに自分の恋人に故意にHIVをうつし、その結果2年間の禁固刑が科せられています。
この事件はいくつかの問題を孕んでいます。
まず、自分の恋人に、自身がHIV陽性であることを告知できない現状があるということです。B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスを所有していることを恋人に告げるのも勇気のいることですが、それ以上にHIVに感染していることを恋人に告げるのは、社会的な差別やスティグマがあるが故に困難なのでしょう。
次に、自分の恋人からHIVをうつされたこの男性は、元恋人を「pure evil(真性の悪魔)」と呼び、自殺未遂にまで至ったということです。我々のように、日頃からたくさんのHIV陽性の方、あるいはエイズを発症している患者さんをみていると、HIV/AIDSが「悪魔」とか「自殺」とかいったものにつながることが理解しがたいのですが、まだまだ世間ではそのようなものとみられていることを示しています。
さらに、自分の恋人にHIVを感染させたことが2~3年の禁固刑に相当するのかという問題があります。HIV感染は死に至る病ではもちろんありません。このような重い(と私は感じます)刑を科すことによって、世間のHIVに対するスティグマが助長されないか、私は危惧しています。
HIV陽性であることを背負いながら生きている、その女性の苦悩を理解することができなかった4人の元恋人には、反省すべき点がないのでしょうか。
自分の恋人にHIVを感染させたことは罪であるかもしれませんが、名前を公表して(ここでは被告の名前はあえて伏せておきます)、禁固刑が当然であるかのような発表をおこなうことには違和感を覚えます。
HIV陽性者を「犯人」扱いするのではなく、HIV陽性であることを、少なくとも自分の恋人には告げられるような、差別・スティグマのない社会があるべき姿のはずです。
『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ』でも述べましたが、HIV陽性であることの苦悩をもっとも受け止めることができるのはその恋人なのですから・・・。
(谷口 恭)
ヘアーサロンの受付をしているこの女性は、これまでに4人の男性に対して自分がHIV陽性であることを隠して、コンドームを用いない性交渉(unprotected sex)をおこなったそうです。
そのうちのひとりの31歳の男性がHIVに感染したわけですが、これが発覚したのは、その4人の男性のうちのひとりである36歳の別の男性が、コンドームを用いない性交渉をした後に、彼女がHIV陽性であることを告げたために、警察に事情を話したことがきっかけとなりました。
警察がこの女性の家宅捜査をおこない、そこから4人の男性と付き合いがあったことが発覚し、4人のうち1人の男性がHIVに感染していることが分かりました。この男性はこの女性と2001年から2年間の付き合いをしていたそうです。自身がHIVを彼女からうつされたことを知った直後は、精神的に不安定になり、自殺まで試みたそうです。
UKでは昨年(2005年)にも似たような事件がありました。15歳のときにHIVに感染した女性が、20歳のときに自分の恋人に故意にHIVをうつし、その結果2年間の禁固刑が科せられています。
この事件はいくつかの問題を孕んでいます。
まず、自分の恋人に、自身がHIV陽性であることを告知できない現状があるということです。B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスを所有していることを恋人に告げるのも勇気のいることですが、それ以上にHIVに感染していることを恋人に告げるのは、社会的な差別やスティグマがあるが故に困難なのでしょう。
次に、自分の恋人からHIVをうつされたこの男性は、元恋人を「pure evil(真性の悪魔)」と呼び、自殺未遂にまで至ったということです。我々のように、日頃からたくさんのHIV陽性の方、あるいはエイズを発症している患者さんをみていると、HIV/AIDSが「悪魔」とか「自殺」とかいったものにつながることが理解しがたいのですが、まだまだ世間ではそのようなものとみられていることを示しています。
さらに、自分の恋人にHIVを感染させたことが2~3年の禁固刑に相当するのかという問題があります。HIV感染は死に至る病ではもちろんありません。このような重い(と私は感じます)刑を科すことによって、世間のHIVに対するスティグマが助長されないか、私は危惧しています。
HIV陽性であることを背負いながら生きている、その女性の苦悩を理解することができなかった4人の元恋人には、反省すべき点がないのでしょうか。
自分の恋人にHIVを感染させたことは罪であるかもしれませんが、名前を公表して(ここでは被告の名前はあえて伏せておきます)、禁固刑が当然であるかのような発表をおこなうことには違和感を覚えます。
HIV陽性者を「犯人」扱いするのではなく、HIV陽性であることを、少なくとも自分の恋人には告げられるような、差別・スティグマのない社会があるべき姿のはずです。
『今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ』でも述べましたが、HIV陽性であることの苦悩をもっとも受け止めることができるのはその恋人なのですから・・・。
(谷口 恭)