GINAと共に
第69回 南京虐殺と集団買春(2012年3月)
河村たかし名古屋市長の南京虐殺に関する発言が物議をかもし日中友好関係に影を落としています。2012年2月20日、中国・南京市から表敬訪問のために名古屋市に訪れた共産党市委員会の常務委員と会談した際に、河村市長が「南京虐殺など存在せず中国が過剰反応した」という内容のことを発言した、と報道されています。
もっとも、河村市長が実際にどのような言葉を使ったのかはよくわからず、報道によっては、河村市長が「南京虐殺などまったく存在しない」と言った、とするものもあれば、「南京虐殺があったことは認めるものの中国側が主張するような30万人の死者というのは多すぎる」と言った、とするものまであり、事の真相はよく分かりません。
ただ、日中関係に少なからず影響を与えているのは事実です。南京のある江蘇省では、省政府職員に対し名古屋への渡航禁止通達が出されたようですし、サッカー前日本代表監督の岡田武史氏が率いる中国リーグ「杭州緑城」は、当初予定していた東日本大震災発生1年に当たる3月11日の開幕戦での黙とうを取りやめたそうです。
30万人という数字は当事の南京の人口からみて多すぎるというのは、これまでも多くの識者から指摘されていることで、検証が可能なのであればすべきだとは思います。しかし、南京虐殺がまったくなかったかと言えば、「虐殺」という表現の妥当性は別にして、犠牲になった市民がひとりもいない、とは言えないのではないでしょうか。私は、あるドキュメンタリー映画で、元日本軍の男性が「シナの市民にひどいことをした・・・」といった発言をするのを聞いたことがあります。
私は日中の歴史に詳しいわけではなく、南京虐殺について語る資格はありませんが、これまでこの件について見聞きしてきたことから推測して、南京の一般市民に対する暴行・殺戮、女性に対する強姦がまったくなかったとは言い切れないのではないかと感じています。個人的には、いくらなんでも30万人は多すぎるだろう・・・、とは思いますが、じゃあそれが3万人ならいいのかと問われればいいはずもなく、数字の信憑性を議論することにはそれほど意味がないような気がします。「南京虐殺は異論もあるものの存在した可能性があり、人数は不明であるが最大30万人とする見方もある」というくらいが客観的な記述になるのではないかと思います。
南京虐殺の真実は私には分かりませんが、現代の日本において中国に買春にいく中年(中年とは限らないかもしれませんが)男性がいるのは事実です。
数年前、日本のある会社が社内旅行で広東省珠海市を訪れ、そこで集団買春がおこなわれていたことが発覚し問題となりました。この問題について、名古屋の河村市長と同様、(あるいはそれ以上に)現在最も注目されている大阪市の橋下徹市長が当事、「日本人による買春は中国へのODAみたいなもの」とテレビ番組で発言し大変な批判をあびました。
当事の橋下氏は市長ではなく、テレビによく出るタレント弁護士だったそうです。私は、その橋下氏の発言をめぐる事件をインターネット上のニュースで知り、そのときに初めて橋下弁護士の存在を知ったのですが、これには大変驚きました。驚いた、というより、あきれた、といった方が正確かもしれません。
その後、(これもインターネットのニュースで知ったのですが)橋下氏は、翌週のその番組の生放送中に突然マイクの前に立ち、涙を浮かべながら番組を降板することを宣言し、そのままスタジオから出て行ったそうです。いくら失言をしたからといって、テレビの生放送中にここまでできる潔さに(今度はいい意味で)驚きました。
その後、橋下氏は大阪府知事に立候補し見事当選し全国的に有名になります。(実際はその前からタレント弁護士として有名だったのだと思いますが、あまりテレビを見ない私には馴染みがありませんでした) さらに、市長となった橋下氏は物議をかもす発言を次々とおこない、議会では驚くような条例を提案し話題を呼んでいます。最近、私は毎朝、朝刊の地方面を見るのがひとつの楽しみになっています。橋下市長関連の記事が大変興味深いからです。橋下市長は道州制にも賛成していると聞いたことがあります。私自身も個人的に道州制を支持しており、日本を再生させるためには道州制が不可欠であると考えています。
そんなわけで、すべてにおいて賛成、というわけではありませんが、私は今後の橋下市長の活躍に期待しています。
しかしながら、潔く生放送で謝罪の見解を発表したからといって、「日本人による買春は中国へのODAみたいなもの」という過去の発言がまったく消えてしまうわけではありません。もしも橋下市長が市長や府知事でなくひとりのタレント弁護士のままであれば、この発言が忘れ去られてもそれほど大きな問題ではないかもしれません。(それでも弁護士という立場上、発言はなかったことにする、というわけにもいかないでしょうが)
日本を代表する自治体のひとつである大阪市の市長が、過去に「日本人による買春はODA」といった発言をしていたということは、やはり看過できないのではないでしょうか。もしも例えば、元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツネッガーが、「戦後日本に駐在していた米国の軍人がパンパン(街娼)を買ってやってたのは日本に対するODAだ」、とテレビで発言したとすれば、我々日本人はどのように感じるでしょうか。
日本人によるアジア人女性の買春でHIVを含む性感染症に罹患する人がいるのが現実です。前回のこのコラムで、私はかつて日本に存在していた「からゆきさん」について述べました。現在の中国では、当事の日本のからゆきさんと同様、貧困から売春せざるを得ない女性が大勢いるのです。そのような女性たちを弄ぶ日本人がODA、つまり「公的な開発の援助」をしている、などという発言は到底許されるものではありません。
橋下氏の発言のきっかけとなった社内旅行で集団買春をおこなった日本の会社は世界の恥さらしとなりましたが、タイでもこのような話、つまり日本人の団体客が集団買春をしているという話を何度か聞いたことがあります。しかし、タイの売買春についてかなりつっこんだ調査をおこなったことのある私の経験からみても、欧米諸国の会社や団体が集団買春をしているなどという話は聞いたことがありません。
集団買春などということをおこなってそれを恥と感じない日本人がいるということを我々は同胞としてもう一度よく考えてみるべきではないでしょうか。さらに、それを肯定する発言をテレビで堂々と弁護士がおこない、その弁護士が知事になり市長になっている、というこの現実を考えたとき、「日本人は紳士ですから南京虐殺などありえません」などと言われて納得する中国人がいるでしょうか。
歴史を正確に検証することももちろん大切ですが、現在の日本人が中国人に対して恥ずかしいことをしていないかどうかを河村市長に再考してもらいたいと私は感じています。橋下市長に対しては、過去の発言に対してこれ以上言及したり謝罪したりする必要はないと思いますが、問題発言をしてしまったことを忘れることなく国際都市大阪のリーダーとして活躍されることを期待したいと思います。
GINAとしては、世間に対し、集団買春を恥ずべきことと感じていないような人たちが考えているよりもHIVを含む性感染症がその後の人生に大きな影響を与えるということ、そしてそれだけのリスクを抱えてまでも生き残るために春を鬻がなければならない女性たちが存在しているということをこれからも訴えていきたいと考えています。
もっとも、河村市長が実際にどのような言葉を使ったのかはよくわからず、報道によっては、河村市長が「南京虐殺などまったく存在しない」と言った、とするものもあれば、「南京虐殺があったことは認めるものの中国側が主張するような30万人の死者というのは多すぎる」と言った、とするものまであり、事の真相はよく分かりません。
ただ、日中関係に少なからず影響を与えているのは事実です。南京のある江蘇省では、省政府職員に対し名古屋への渡航禁止通達が出されたようですし、サッカー前日本代表監督の岡田武史氏が率いる中国リーグ「杭州緑城」は、当初予定していた東日本大震災発生1年に当たる3月11日の開幕戦での黙とうを取りやめたそうです。
30万人という数字は当事の南京の人口からみて多すぎるというのは、これまでも多くの識者から指摘されていることで、検証が可能なのであればすべきだとは思います。しかし、南京虐殺がまったくなかったかと言えば、「虐殺」という表現の妥当性は別にして、犠牲になった市民がひとりもいない、とは言えないのではないでしょうか。私は、あるドキュメンタリー映画で、元日本軍の男性が「シナの市民にひどいことをした・・・」といった発言をするのを聞いたことがあります。
私は日中の歴史に詳しいわけではなく、南京虐殺について語る資格はありませんが、これまでこの件について見聞きしてきたことから推測して、南京の一般市民に対する暴行・殺戮、女性に対する強姦がまったくなかったとは言い切れないのではないかと感じています。個人的には、いくらなんでも30万人は多すぎるだろう・・・、とは思いますが、じゃあそれが3万人ならいいのかと問われればいいはずもなく、数字の信憑性を議論することにはそれほど意味がないような気がします。「南京虐殺は異論もあるものの存在した可能性があり、人数は不明であるが最大30万人とする見方もある」というくらいが客観的な記述になるのではないかと思います。
南京虐殺の真実は私には分かりませんが、現代の日本において中国に買春にいく中年(中年とは限らないかもしれませんが)男性がいるのは事実です。
数年前、日本のある会社が社内旅行で広東省珠海市を訪れ、そこで集団買春がおこなわれていたことが発覚し問題となりました。この問題について、名古屋の河村市長と同様、(あるいはそれ以上に)現在最も注目されている大阪市の橋下徹市長が当事、「日本人による買春は中国へのODAみたいなもの」とテレビ番組で発言し大変な批判をあびました。
当事の橋下氏は市長ではなく、テレビによく出るタレント弁護士だったそうです。私は、その橋下氏の発言をめぐる事件をインターネット上のニュースで知り、そのときに初めて橋下弁護士の存在を知ったのですが、これには大変驚きました。驚いた、というより、あきれた、といった方が正確かもしれません。
その後、(これもインターネットのニュースで知ったのですが)橋下氏は、翌週のその番組の生放送中に突然マイクの前に立ち、涙を浮かべながら番組を降板することを宣言し、そのままスタジオから出て行ったそうです。いくら失言をしたからといって、テレビの生放送中にここまでできる潔さに(今度はいい意味で)驚きました。
その後、橋下氏は大阪府知事に立候補し見事当選し全国的に有名になります。(実際はその前からタレント弁護士として有名だったのだと思いますが、あまりテレビを見ない私には馴染みがありませんでした) さらに、市長となった橋下氏は物議をかもす発言を次々とおこない、議会では驚くような条例を提案し話題を呼んでいます。最近、私は毎朝、朝刊の地方面を見るのがひとつの楽しみになっています。橋下市長関連の記事が大変興味深いからです。橋下市長は道州制にも賛成していると聞いたことがあります。私自身も個人的に道州制を支持しており、日本を再生させるためには道州制が不可欠であると考えています。
そんなわけで、すべてにおいて賛成、というわけではありませんが、私は今後の橋下市長の活躍に期待しています。
しかしながら、潔く生放送で謝罪の見解を発表したからといって、「日本人による買春は中国へのODAみたいなもの」という過去の発言がまったく消えてしまうわけではありません。もしも橋下市長が市長や府知事でなくひとりのタレント弁護士のままであれば、この発言が忘れ去られてもそれほど大きな問題ではないかもしれません。(それでも弁護士という立場上、発言はなかったことにする、というわけにもいかないでしょうが)
日本を代表する自治体のひとつである大阪市の市長が、過去に「日本人による買春はODA」といった発言をしていたということは、やはり看過できないのではないでしょうか。もしも例えば、元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツネッガーが、「戦後日本に駐在していた米国の軍人がパンパン(街娼)を買ってやってたのは日本に対するODAだ」、とテレビで発言したとすれば、我々日本人はどのように感じるでしょうか。
日本人によるアジア人女性の買春でHIVを含む性感染症に罹患する人がいるのが現実です。前回のこのコラムで、私はかつて日本に存在していた「からゆきさん」について述べました。現在の中国では、当事の日本のからゆきさんと同様、貧困から売春せざるを得ない女性が大勢いるのです。そのような女性たちを弄ぶ日本人がODA、つまり「公的な開発の援助」をしている、などという発言は到底許されるものではありません。
橋下氏の発言のきっかけとなった社内旅行で集団買春をおこなった日本の会社は世界の恥さらしとなりましたが、タイでもこのような話、つまり日本人の団体客が集団買春をしているという話を何度か聞いたことがあります。しかし、タイの売買春についてかなりつっこんだ調査をおこなったことのある私の経験からみても、欧米諸国の会社や団体が集団買春をしているなどという話は聞いたことがありません。
集団買春などということをおこなってそれを恥と感じない日本人がいるということを我々は同胞としてもう一度よく考えてみるべきではないでしょうか。さらに、それを肯定する発言をテレビで堂々と弁護士がおこない、その弁護士が知事になり市長になっている、というこの現実を考えたとき、「日本人は紳士ですから南京虐殺などありえません」などと言われて納得する中国人がいるでしょうか。
歴史を正確に検証することももちろん大切ですが、現在の日本人が中国人に対して恥ずかしいことをしていないかどうかを河村市長に再考してもらいたいと私は感じています。橋下市長に対しては、過去の発言に対してこれ以上言及したり謝罪したりする必要はないと思いますが、問題発言をしてしまったことを忘れることなく国際都市大阪のリーダーとして活躍されることを期待したいと思います。
GINAとしては、世間に対し、集団買春を恥ずべきことと感じていないような人たちが考えているよりもHIVを含む性感染症がその後の人生に大きな影響を与えるということ、そしてそれだけのリスクを抱えてまでも生き残るために春を鬻がなければならない女性たちが存在しているということをこれからも訴えていきたいと考えています。