GINAと共に
第40回 ウドンタニの売春合法化は実現するか(2009年10月)
タイの東北地方(イサーン地方)にあるウドンタニ県をご存知でしょうか。ウドンタニはイサーン地方の中心県のひとつであり、比較的大きな空港もあります。人口はおよそ150万人で、タイの県別の人口では第8位になります。
ウドンタニはバンコクと比べると、ずいぶんのんびりした印象を受けますが、空港やバスターミナルの付近はそれなりににぎわっています。チェンマイやプーケットに比べると、それほどリゾート地という感じはしませんが、外国人もまあまあ住んでいます。日本人は白人に比べると、それほど多くなく私はウドンタニでスーツを着た日本人を見たことはありませんが、観光(夜遊び?)に来ていると思われる日本人に何度か会ったことがあります。
タイはどこの地方に行っても必ず売春施設がある、と言われることがありますが、このウドンタニも例外ではなく、様々な形態の売春施設があります。なかには、そういった施設に行くことを目的としてウドンタニ県まではるばるやって来る男性も(日本人も含めて!)いるようです。
そのウドンタニ県の産業審議会(Industrial Council)のプラヨーン(Prayoon)会長が、売春合法化をタイ政府に求めています。(報道は9月15日のThe Nation)
プラヨーン会長は次のようにコメントしています。
「売春を一掃することは絶対にできない。ならば現実に目を向けて合法化すべきだ。売春が違法である限り性犯罪は減少しない・・・」
同会長は、世界には売春を合法化している地域もあることを引き合いに出し、売春施設やセックスワーカーを当局が登録制にし管理すべきだと主張しています。こうすることによって、セックスワーカーが社会保障を受けられるだけでなく、政府にとっても税金を徴収できることになり、両者にとってメリットがある、というようなことを主張しています。
プラヨーン会長のこのような発言は、特に画期的なものではなく、以前から世界中で提唱されている概念です。セックスワーカーの側からみると、非合法の状態であればいつ逮捕されるか分かりませんし、暴力やレイプといった性犯罪に巻き込まれる可能性が高いわけですが、これが当局の管理の下になるとすれば、いくぶんはこういったトラブルが避けられるかもしれません。したがって、売買春を合法化することによりセックスワーカーも安全に働けるようになるではないか、というのが売春合法提唱者の言い分です。
同会長が指摘しているように、売買春を合法化すれば、そこから税金も徴収できるわけですから、一見合理的なシステムのように見受けられます。
一方、当事者であるセックスワーカーは売春合法化についてどのように感じているのでしょうか。
このニュースを報道したThe Nationは、「女性の友基金」(Friends of Women Foundation)のタナワディ(Thanavadee)代表に対して取材をしています。
タナワディ氏は、まず、売春施設の地域指定化については賛成しています。タイの売春施設のなかには学校や寺院の近くに位置しているところもあり、これらは誰の目からみても問題だからです。現在のように売春そのものが完全に非合法な状態であると、結局はどこにでもつくられることになります。もしも、売春施設に関する法律で地域を限定するようにすれば、このような教育上あるいは道徳上問題のある地域での売春はできないことになります。
タナワディ代表は、セックスワーカーの社会的保護にも賛成しています。他の職業と同様の社会保障を受ける権利がある、と述べています。
しかしながら、タナワディ代表は、セックスワーカーの登録管理制度については反対しています。社会保障が受けられるようになる可能性がある一方で、セックスワーカーにとってはマイナスの要因もあると主張し次のように述べています。
「セックスワーカーを登録制にすれば、彼女たちがセックスワークを終えた後の人生に影響を与えることになります。登録をされることにより、彼女たちが売春婦という烙印を押されることになり、その後の人生もそのような目で見られてしまいます。将来、他の職業に就こうと思ってもその烙印のせいで他の仕事ができなくなってしまうと思われるのです」
タナワディ氏のこの主張は、セックスワーカーの立場にたった現実的な意見と言えるでしょう。もしもセックスワーカーが登録制になれば、公的な記録として残ることになります。いくら守秘義務が守られることが約束されるとしても、当事者からみればやはり記録に残ってしまうことには抵抗があるでしょう。
しかしながら、タナワディ氏は、セックスワーカーの社会保障は必要だと述べているわけです。
では、「社会保障」とは何なのでしょうか。具体的にどのような社会保障があれば、セックスワーカーが安心して働けるのでしょうか。
私が考えるセックスワーカーの保障は主に3つあります。1つは、顧客の暴力から守られること、2つめは、警察に逮捕されないこと(売春が非合法である限り、彼女らはいつ逮捕されるかわからないという恐怖心をもっています)、そして3つめは性感染症の予防です。
もしも、セックスワーカーの施設が合法化されれば、1つめと2つめの問題はかなり解決できるのではないでしょうか。現状では、たとえセックスワーカーが顧客に暴行を加えられたとしても警察には駆け込めません。なぜなら、セックスワークという行為自体が違法だからです。施設が合法化されれば、このようなリスクは大きく減少することが期待できます。
3つめの問題、すなわち性感染症の予防については、行政がB型肝炎ウイルスワクチンの無料接種(タイでは日本と同様、B型肝炎のワクチンが全員に接種されていません)や、性感染症の定期的な無料検査を実施し、さらに無料でコンドームを配布するのが得策だと思われます。
そうすることによって、セックスワーカーは性感染症のリスクを大きく軽減することができます。無料で検査やワクチン接種をおこなうことで予算が必要になりますが、セックスワークを合法化することにより、売春施設やセックスワーカーから税金を徴収することができるのです。
ウドンタニの議会で現在この件がどのように進められているのか、マスコミからの情報は伝わってきませんが、私がここで述べたような具体的な社会保障について積極的な議論を期待したいと思います。
ウドンタニはバンコクと比べると、ずいぶんのんびりした印象を受けますが、空港やバスターミナルの付近はそれなりににぎわっています。チェンマイやプーケットに比べると、それほどリゾート地という感じはしませんが、外国人もまあまあ住んでいます。日本人は白人に比べると、それほど多くなく私はウドンタニでスーツを着た日本人を見たことはありませんが、観光(夜遊び?)に来ていると思われる日本人に何度か会ったことがあります。
タイはどこの地方に行っても必ず売春施設がある、と言われることがありますが、このウドンタニも例外ではなく、様々な形態の売春施設があります。なかには、そういった施設に行くことを目的としてウドンタニ県まではるばるやって来る男性も(日本人も含めて!)いるようです。
そのウドンタニ県の産業審議会(Industrial Council)のプラヨーン(Prayoon)会長が、売春合法化をタイ政府に求めています。(報道は9月15日のThe Nation)
プラヨーン会長は次のようにコメントしています。
「売春を一掃することは絶対にできない。ならば現実に目を向けて合法化すべきだ。売春が違法である限り性犯罪は減少しない・・・」
同会長は、世界には売春を合法化している地域もあることを引き合いに出し、売春施設やセックスワーカーを当局が登録制にし管理すべきだと主張しています。こうすることによって、セックスワーカーが社会保障を受けられるだけでなく、政府にとっても税金を徴収できることになり、両者にとってメリットがある、というようなことを主張しています。
プラヨーン会長のこのような発言は、特に画期的なものではなく、以前から世界中で提唱されている概念です。セックスワーカーの側からみると、非合法の状態であればいつ逮捕されるか分かりませんし、暴力やレイプといった性犯罪に巻き込まれる可能性が高いわけですが、これが当局の管理の下になるとすれば、いくぶんはこういったトラブルが避けられるかもしれません。したがって、売買春を合法化することによりセックスワーカーも安全に働けるようになるではないか、というのが売春合法提唱者の言い分です。
同会長が指摘しているように、売買春を合法化すれば、そこから税金も徴収できるわけですから、一見合理的なシステムのように見受けられます。
一方、当事者であるセックスワーカーは売春合法化についてどのように感じているのでしょうか。
このニュースを報道したThe Nationは、「女性の友基金」(Friends of Women Foundation)のタナワディ(Thanavadee)代表に対して取材をしています。
タナワディ氏は、まず、売春施設の地域指定化については賛成しています。タイの売春施設のなかには学校や寺院の近くに位置しているところもあり、これらは誰の目からみても問題だからです。現在のように売春そのものが完全に非合法な状態であると、結局はどこにでもつくられることになります。もしも、売春施設に関する法律で地域を限定するようにすれば、このような教育上あるいは道徳上問題のある地域での売春はできないことになります。
タナワディ代表は、セックスワーカーの社会的保護にも賛成しています。他の職業と同様の社会保障を受ける権利がある、と述べています。
しかしながら、タナワディ代表は、セックスワーカーの登録管理制度については反対しています。社会保障が受けられるようになる可能性がある一方で、セックスワーカーにとってはマイナスの要因もあると主張し次のように述べています。
「セックスワーカーを登録制にすれば、彼女たちがセックスワークを終えた後の人生に影響を与えることになります。登録をされることにより、彼女たちが売春婦という烙印を押されることになり、その後の人生もそのような目で見られてしまいます。将来、他の職業に就こうと思ってもその烙印のせいで他の仕事ができなくなってしまうと思われるのです」
タナワディ氏のこの主張は、セックスワーカーの立場にたった現実的な意見と言えるでしょう。もしもセックスワーカーが登録制になれば、公的な記録として残ることになります。いくら守秘義務が守られることが約束されるとしても、当事者からみればやはり記録に残ってしまうことには抵抗があるでしょう。
しかしながら、タナワディ氏は、セックスワーカーの社会保障は必要だと述べているわけです。
では、「社会保障」とは何なのでしょうか。具体的にどのような社会保障があれば、セックスワーカーが安心して働けるのでしょうか。
私が考えるセックスワーカーの保障は主に3つあります。1つは、顧客の暴力から守られること、2つめは、警察に逮捕されないこと(売春が非合法である限り、彼女らはいつ逮捕されるかわからないという恐怖心をもっています)、そして3つめは性感染症の予防です。
もしも、セックスワーカーの施設が合法化されれば、1つめと2つめの問題はかなり解決できるのではないでしょうか。現状では、たとえセックスワーカーが顧客に暴行を加えられたとしても警察には駆け込めません。なぜなら、セックスワークという行為自体が違法だからです。施設が合法化されれば、このようなリスクは大きく減少することが期待できます。
3つめの問題、すなわち性感染症の予防については、行政がB型肝炎ウイルスワクチンの無料接種(タイでは日本と同様、B型肝炎のワクチンが全員に接種されていません)や、性感染症の定期的な無料検査を実施し、さらに無料でコンドームを配布するのが得策だと思われます。
そうすることによって、セックスワーカーは性感染症のリスクを大きく軽減することができます。無料で検査やワクチン接種をおこなうことで予算が必要になりますが、セックスワークを合法化することにより、売春施設やセックスワーカーから税金を徴収することができるのです。
ウドンタニの議会で現在この件がどのように進められているのか、マスコミからの情報は伝わってきませんが、私がここで述べたような具体的な社会保障について積極的な議論を期待したいと思います。