GINAと共に

第29回 大麻の危険性とマスコミの責任(2008年11月)

ここのところ「大麻取締法で逮捕」という新聞記事をよく目にします。

 同志社大学の女子学生、関西学院大学を中退した元学生が大麻取締法で逮捕され報道されだしたあたりから、次々と同じような事件がマスコミをにぎわせています。

 慶応大学ではキャンパス内で大麻の取引があったことが発覚し、鹿児島県では高2の男子生徒が自宅で大麻を栽培していたことが判りました。

 富山県では河川敷で大麻を栽培していた夫婦が逮捕されたかと思えば、佐賀県では17歳の男子が大麻保持で逮捕・・・、と新聞の隅の方まで読めばいくらでもでてきそうです。

 有名人でも逮捕者が相次いでいます。10月に加勢大周氏が大麻栽培で逮捕され(加勢氏は覚醒剤取締法でも逮捕されています)、その後プロの格闘家やプロテニスプレーヤーも逮捕されています。

 実は、大麻で逮捕される者のなかには医師や歯科医師もいます。医道審議会といって罪を犯した医師・歯科医師の処分を決定する行政機関があるのですが、その医道審議会が発表する「医師・歯科医師の処分リスト」のなかには、毎年必ず、大麻取締法で逮捕された医師・歯科医師が入っています。

 つい先日(11月20日)も、大阪歯科大学附属病院の歯科医師が車に大麻を隠し持っていたことが、パトロール中の警察官の職務質問で発覚しています。

 さらに驚くべき事件は、渋谷区の歯科クリニックで、クリニックの院長(48歳男性)が通院していた患者(20歳女性)と一緒に大麻を吸引していたというものです。実際にこんなことがあり得るのか・・・、大衆週刊誌のガセネタではないのか・・・、と思ってしまいますが警視庁が発表し共同通信が報道していますから事実なのでしょう。

 さて、大麻擁護者たちがよく言うセリフに、「大麻は身体に悪くない。タバコの方が依存性があってずっと害になる。実際、オランダやインドの一部の州では合法じゃないか」というものがあります。

 今回はこれについて検証していきたいと思います。まず、大麻は身体にどれくらいの害を与えるかについてですが、たしかに教科書的には大麻は「依存性は低い」とされています。タバコ(ニコチン)の方が、はるかに依存性が強いのは自明です。

 オランダやインドの一部の州で大麻が合法なのは有名で、大麻目的でこれらの地域に旅行する人も少なくないと言われています。(ただし、インドでは外国人が大麻を吸えば違法になるはずです。実際には、外国人が大麻で逮捕されることはほとんどないようですが・・・)

 また、カンボジアでは大麻が伝統料理に使われることもあり、吸引する大麻は大変安く、「タバコを買う金のない貧乏人が大麻を吸う」と言われることもあるそうです。

 伝統料理に使われるんだったら、一概に「大麻=悪」とは言えないんじゃないの・・・。そのように感じる人もいるでしょう。

 では、実際に大麻を吸うとどのような快楽が得られるのでしょうか。(もちろん私は経験がありませんが)、視覚や聴覚が鋭敏になるとされています。例えば、音楽が身体の奥に染み入るように聞こえ、雲のかたちが動物に見えたり天井のシミが虫に見えたり(これをパレイドリアと呼びます)、といった感じになります。80年代後半に公開された『レスザンゼロ』という映画では、白いはずの壁が、シーンによってはピンクや紫のモヤがかかったようになっていました。これは、実際に大麻を吸ったときに見えるような光景をつくっているそうです。

 アルコールは依存症になると社会生活が営めなくなることもありますし、ニコチン依存症は心筋梗塞や肺がんの原因になります。覚醒剤や麻薬が身を滅ぼすのは自明でしょう。

 では、なぜ大麻が「悪」なのでしょうか。実は、私自身もこの答えについては"本質的には"よく分かりません。大麻が悪なのは法律で禁じられているからです。では、なぜ法律で禁じられているかというと、おそらく国民の大半がこんなことをすれば、誰も働かなくなり国家が存続できなくなるからかな・・・、という推測くらいしか私にはできません。

 ただし、本質的には分からない私も、「大麻=悪」と言い切れる理由を知っています。それは、大麻が違法薬物の入り口になることがまったく珍しくない、というものです。「大麻はタバコよりも安全なんだよ」とか言われて大麻を吸いだしたという若い人がいますが、売人は初心者に対して、大麻の「敷居の低さ」を訴えかけます。ここで大麻だけで済めば、ある意味では"軽症"かもしれません。(ただしこの時点ですでに法律はおかしています)

 ここからが"本質的に"問題です。違法薬物の「先輩たち」、あるいは売人は、大麻以上の薬物をすすめるようになります。覚醒剤やMDMA(エクスタシー)がメジャーなところですが、最近は実際には危険性の強い様々な「合法ドラッグ」が普及しています。ここまでくれば身を滅ぼす可能性が一気に上昇します。そして、ここまで来た人のいくらかは静脈注射に手を出します。こうなれば社会的に身を滅ぼす以外にも感染症の可能性がでてきます。(私はこのパターンでHIVに感染した多くのタイ人をみてきました)

 大麻は確かに吸ってはいけないものです。しかし、それ以上の薬物はもっともっと危険なのです。このことはもっともっと強調されなければならないと私は考えています。

 実際に大麻取締法と覚醒剤取締法、さらに麻薬取締法では罪の重さが違うのですが、なぜか一部のマスコミの報道はこのあたりが非常にあいまいになっています。例えば、最近放映されたある民法番組では、大麻の氾濫が取り上げられていましたが、テロップには、なんと「麻薬に汚染される若者たち」と書かれていたのです!

 これでは、大麻と麻薬が同じようなものというイメージを視聴者に与えかねません。もしも、心のどこかで大麻と麻薬、あるいは覚醒剤が同じようなカテゴリーに入ってしまっていると、大麻を吸ってしまったときに、覚醒剤や麻薬への敷居が低くなってしまうのではないかと思われます。

 しかし、そうではないのです。他人を殴るのは列記とした罪ですが、殴り殺せば罪のレベルがまったく異なります。大麻と麻薬・覚醒剤についても同じことが言えるのではないでしょうか。

 マスコミには、大麻の危険性を訴えるのと同時に、覚醒剤や麻薬が大麻とは比べ物にならないくらいに危険であることをしっかりと報道していもらいたいものです。

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