GINAと共に

第27回(2008年9月) 幼児買春と臓器移植

 2008年9月23日に開幕したバンコク国際映画祭には、当初、日本の作品『闇の子供たち』が上映される予定でしたが突然中止となりました。

 報道によりますと、映画祭が始まる数日前、監督の阪本順治氏に上映禁止の通知が届いたそうです。バンコク国際映画祭の主催者であるタイ国政府観光庁の関係者が「観光地タイをアピールする映画祭にふさわしくない」との判断をしたとされています。

 『闇の子供たち』は、梁石日(ヤンソギル)氏の原作をもとに阪本監督が製作したタイの裏社会を舞台とした映画で、幼児買春や臓器移植を露骨に表現しており、また日本の一流の俳優を多数起用していることから(江口洋介、佐藤浩市、豊原功補、宮崎あおい、妻夫木聡など)かなり話題を呼んでいました。(しかし上映はなぜか「単館系」でした・・・)

 GINAでは以前から、タイの幼児買春をなんどか取り上げていたこともあり、この映画を観た人から意見を求められることがありました。『闇の子供たち』で問題提起されているテーマは主に2つあります。1つは(生きている子供の)臓器移植、もうひとつは幼児買春です。

 臓器移植からみていきましょう。まず、本当にこんなことがタイではあるのか、という疑問です。たしかに、タイでは戸籍のない子供も多く、山岳民族やミャンマーの子供たちが売買されているのは事実です。冒頭のシーンにあったような、人身売買のブローカーが北部や山岳民族を訪れて小さな子供を親から買っているという現実は間違いありません。

 しかしながら、子供の臓器が売買されているかというと(しかも生きた子供の心臓を取り出すようなことがあるかというと)、これは疑問に思えます。私の知る限り、日本の子供がタイで(心臓だけでなく)臓器の移植を受けたという事実はありません。

 そもそも心臓移植をおこなおうと思えば、高度な設備が不可欠となり、少なくとも3人の執刀医、複数の看護師、それに人工心肺を動かす技師が必要となります。つまり、生きたまま心臓を取り出そうなどと考える医師が仮にいたとしても(いるとは思えませんが)、複数の医療従事者と病院がグルにならなければこのような移植手術をおこなうことはできないのです。

 臓器移植がさかんにおこなわれているのは、タイよりもフィリピンと中国です。特にフィリピンでは多くの日本人が生体腎移植を受けています。腎臓は心臓と異なり2つありますから生きたままの状態で1つの腎臓を取り出しても命に別状はありません。フィリピンは、臓器移植に関してはかなり積極的な国で、死刑囚が臓器を有償で提供しています。これは倫理上の問題がもちろんありますが合法です。

 では、フィリピンでおこなわれている臓器移植がすべて合法かというと、そうでもなさそうです。これはあくまでも"噂"ですが、『闇の子供たち』にあったような人身売買された子供の腎臓が摘出されているという噂があります。また、数年前に肝硬変を患った日本の有名プロレスラーが、フィリピンで生体肝移植を受け、肝臓の一部を提供したフィリピンの若い男性が術後に亡くなったという報道もありました。(ただし、そのフィリピンでも心臓の売買があるとはとうてい思えません・・・)

 タイでも、もしかすると腎臓くらいなら違法に子供の臓器を摘出するということがあるかもしれませんが、映画(及び原作)にあったような生きたまま子供の心臓を取り出すということはやはりあり得ないと考えるべきでしょう。

 それでは、『闇の子供たち』で取り上げられた人身売買と幼児買春についてはどうかというと、これはおそらく"ありのまま"だと思われます。

 映画のシーンにあったような、白人男性が子供(男の子でも女の子でも)を買って性的虐待をおこなっているのは間違いない事実です。(実際、タイの現地新聞ではパタヤやバンコクでのこのような事件がときどき報道されています)

 白人のカップル(原作ではレズビアンのアメリカ人カップル)がタイ人の9歳くらいの男の子のペニスを勃起させるために、ホルモン剤(実際には「ホルモン剤」というよりも「血管拡張剤」が正しいと思われます。原作にはプロスタグランジンとあります)を注射して、その副作用で男の子が死亡するシーンは、この映画で最もインパクトのあるシーンのひとつですが、このあたりもタイの裏社会をよく知る人なら「ありえるだろう・・・」と感じているでしょう。

 また、日本人のオタク風のメガネをかけた男性が、まだ処女の7歳くらいの女の子(センラーちゃん)を売春宿から買って(スーツケースに入れて持ち帰り)、ホテルでビデオ撮影をしながら虐待していくシーンも、「充分にありえるだろう・・・」と思われます。

 さて、GINAはこのウェブサイトを通して「売買春のむつかしさ」を訴えてきました。最初はセックスワーカーと顧客の関係でもそれが恋愛や結婚に発展するケースは決して珍しくありませんし(幸せな恋愛中の二人を誰が非難できるでしょう・・・)、日本人の女性がタイのゴーゴーボーイに恋している姿は、非難すべきというよりもむしろ"微笑ましく"私には感じられます。

 しかしながら、買春の相手が「子供」となると話がまったく異なります。幼児愛(pedophilia)は絶対に許されるものではありません。幼児愛者(pedophiliac)に対しては、衝動を抑えられないなら社会から"隔離"されるしかないと私は考えています。

 もちろん世論の大多数が「幼児愛は絶対に許すべきでない」と考えていますから、最近では世界的に、幼児買春施設は随分と減ってきています。一時世界中の幼児愛者が集まってきたと言われているカンボジアのスワイパー村では、まだ生理も始まっていないくらいの年齢の女の子(男の子も)がわずか1ドルで売買されていたと言われています。このスワイパー村も、国連やNGOなどの活動で、幼児買春は最近ではほとんどなくなっているそうです。

 タイもタクシン政権の頃には、かなり幼児買春がなくなったとされていましたが、最近になってにわかに増えているのではないかとの"噂"もあります。これはタイの経済発展も影響して、ミャンマーやカンボジア、ラオスなどの近隣国から難民が大量に入国していることと関係があります。戸籍もなく生きていくためのお金もない子供たちが、悪質なブローカーに買われているのです。そして、ドラッグや売買春に対して再び規制が緩くなったタイに、世界中の幼児愛者が流入してきているのではないかと思われます。

 映画『闇の子供たち』のラストシーンは、少し後味が悪いのですが、このラストシーンによってストーリーが上手くまとめられているように思えます。(このシーンは原作にはありません)

 タイの実情を知りたい人、幼児愛や売買春といった問題に興味のある人、貧困から学校に通えないような子供について知りたい人などは、一度観てみることをおすすめします。


参考:
(タイの買春宿の実態については)「南タイの売春事情」
(日本人女性がタイ男性を買っている実態については)「魅惑のゴーゴーボーイ」
(フィリピンの臓器移植については)「臓器売買の医師の責任(後半)」

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