GINAと共に
第14回 リタイア後の楽しみ(2007年8月)
2006年4月に改定された高年齢者雇用安定法では、定年を65歳未満に設定している企業に対して、定年 を引き上げる、退職後に雇用契約を結びなおして再雇用する「継続雇用制度」を導入する、定年制を廃止する、のいずれかが義務付けられるようになりました。
また、今月(2007年8月)には、厚生労働省が、来年度から、従業員全員を70歳まで継続して雇用する企業を財政支援する方針を固めました。雇用保険を活用して、一社あたり40から200万円程度の助成金を支払うことになります。
これは、今後日本で労働人口が急激に減少することから起こる人手不足に対する解決策というのが一番の理由だと思われますが、すでに崩壊してしまっている年金問題への対応策として、厚生労働省は年金支給年齢の切り上げを検討しているのではないかと、私には思えます。
日頃医師として患者さんと接していると、65歳以上、あるいは70歳以上で仕事をしている人は、していない人に比べて"元気"な印象があります。"元気"だから仕事をしている、というのもあるでしょうが、私にはそれだけでないように見えます。つまり、「仕事をしているから生活にハリができて元気になっている」のではないかと思われるのです。
一方で、65歳まで(あるいは60歳まで)働き続けたんだから、高齢者には休ませてあげればいいじゃないか、という意見もあります。
海外ではどうでしょうか。
欧米諸国にある程度長期で滞在したことがある人たちがよく言うのは、高齢者のボランティアの多さです。
病院や施設で患者さんのケアをしたり話し相手になっている人、公園や街を掃除している人、地域の子供たちのためにクリスマスパーティを開いたり、伝統行事を教えたりしている人は、無償のボランティア、それも高齢者のボランティアが多いことがよくあります。
年をとってからの過ごし方が、日本人は仕事、西洋人はボランティア、と単純に区別できるわけではありませんが、なにかとワーカホリックと揶揄されることの多い日本人はやはり仕事が好きなのかもしれません。
私は日本人として仕事は楽しんでおこなうものだと思っていますし、仕事をしている高齢者を医師として支援したいと考えていますが、今一度「ボランティアの喜び」について日本人が思いをめぐらせてみてもいいのではないかと考えています。
仕事とボランティアの一番の違いは、「報酬がもらえるかどうか」です。高福祉国家のヨーロッパ諸国と比べれば、たしかに日本は年をとってからの生活が保障されていません。年金ですら今後受給されるかどうかが疑わしい状況です。
しかしながら、現在の日本では衣・食・住にこまるということはそれほどありませんし、高齢者になれば、例えば子供の教育費や交際費などに悩まされることは少なくなっているでしょうし、住宅ローンの返済が済んでいる人も多いでしょう。また、日本の高齢者の貯蓄率は世界一位だと言われています。
それならば、全員が、というわけにはいきませんが、ある程度お金に余裕のある人はボランティアを始めてみてはどうでしょうか。お金に余裕がある、と言い切れる人はそんなに多くないかもしれませんが、例えば、アルバイトというかたちで週に2~3日程度働けば充分にやっていけるという人は少なくないのではないかと思われます。
もちろん、私が提案するまでもなく、すでにボランティア活動をしている人は少なくありません。団塊世代(1947年から49年生まれ)の3人に1人はすでにボランティア活動をおこなっていることが、国立教育政策研究所がおこなったアンケート調査でわかりました。(報道は2007年8月14日の日本経済新聞)
この調査結果を詳しくみてみると、団塊世代でボランティアにかかわっている人は、全体では35.1%、男性33.6%、女性37.1%です。活動内容は、「町内会などの手伝い」が19.1%でトップ、「ゴミ拾いやリサイクル」「伝統芸能や祭りの指導」が続いています。
また、満足度については、「満足している」「やや満足している」を合わせると72.5%と高い数値を示しています。活動の意義については、「地域に役立つ」「ものの見方が広がる」「友人・知人ができる」などの意見が多いようです。
さて、再び西洋人に話を戻すと、タイのエイズ施設では多くの高齢の西洋人がボランティアをしています。それに対し、タイで会う日本人のボランティアの大半は若い人で、なかには「自分探し」のためにボランティアを試している、というような人もいます。それはそれで悪くはないと思いますが、若い人たちのボランティアはどうしても期間が短くなりがちで、この点が西洋人から批判されがちです。
先に、「ある程度お金に余裕があるなら、収入が得られる仕事は週に2~3回で・・・」という意見を述べましたが、「週に2~3回」ではなく、「半年間は週5日間働いて、残りの半年をボランティアに費やす」という選択肢があってもいいのではないかと思います。労働力があふれている社会では無理でしょうが、これからの日本のように「超高齢化」を迎える社会では、労働者側の売り手市場になりますから、そのような勤務形態も可能になるのではないかと私は考えています。
海外でのボランティアには、日本では体験できない楽しみがいくつもあります。まず、違う文化を知ることができますし、日本で得た知識や技術が現地の人から大変感謝されることもよくあります。それに、もうひとつ大きな楽しみがあります。それは世界中の人と仲良くなれることです。実際、私はタイに行くときの楽しみのひとつが、タイ人だけでなく、世界中から集まってきている人たちと交流がもてることです。(これはバックパッカーの経験がある人ならお分かりいただけるでしょう)
私個人の意見として、ボランティア以外のリタイア後の楽しみとして、語学の習得があります。若い頃は、英語以外の外国語を勉強するのは相当困難ですが(英語だけでもかなり大変!)、リタイア後なら時間にゆとりができるはずです。
語学の習得、海外でのボランティア、この2つは私自身がリタイア後に実践しようと考えていることでもあるのですが、私はこの2つを本格的にできることを考えると、今からリタイア後の人生が楽しみで仕方がありません。
私と同世代か、少し上の世代の人と話をしていると、「老いることへの恐怖」を持っている人が少なくありません。
しかし、リタイア後は、時間にゆとりがもてて、出費が減る分お金にも余裕ができますから、若い時代にできなかったことが楽しめるのです!
70歳まで連続勤務も悪くはないですが、残された人生を最大限に楽しむにはどうすればいいか・・・。その選択肢のなかに、海外でのボランティアと語学習得を入れてみるのはいかがでしょうか。
GINAと共に目次へ
また、今月(2007年8月)には、厚生労働省が、来年度から、従業員全員を70歳まで継続して雇用する企業を財政支援する方針を固めました。雇用保険を活用して、一社あたり40から200万円程度の助成金を支払うことになります。
これは、今後日本で労働人口が急激に減少することから起こる人手不足に対する解決策というのが一番の理由だと思われますが、すでに崩壊してしまっている年金問題への対応策として、厚生労働省は年金支給年齢の切り上げを検討しているのではないかと、私には思えます。
日頃医師として患者さんと接していると、65歳以上、あるいは70歳以上で仕事をしている人は、していない人に比べて"元気"な印象があります。"元気"だから仕事をしている、というのもあるでしょうが、私にはそれだけでないように見えます。つまり、「仕事をしているから生活にハリができて元気になっている」のではないかと思われるのです。
一方で、65歳まで(あるいは60歳まで)働き続けたんだから、高齢者には休ませてあげればいいじゃないか、という意見もあります。
海外ではどうでしょうか。
欧米諸国にある程度長期で滞在したことがある人たちがよく言うのは、高齢者のボランティアの多さです。
病院や施設で患者さんのケアをしたり話し相手になっている人、公園や街を掃除している人、地域の子供たちのためにクリスマスパーティを開いたり、伝統行事を教えたりしている人は、無償のボランティア、それも高齢者のボランティアが多いことがよくあります。
年をとってからの過ごし方が、日本人は仕事、西洋人はボランティア、と単純に区別できるわけではありませんが、なにかとワーカホリックと揶揄されることの多い日本人はやはり仕事が好きなのかもしれません。
私は日本人として仕事は楽しんでおこなうものだと思っていますし、仕事をしている高齢者を医師として支援したいと考えていますが、今一度「ボランティアの喜び」について日本人が思いをめぐらせてみてもいいのではないかと考えています。
仕事とボランティアの一番の違いは、「報酬がもらえるかどうか」です。高福祉国家のヨーロッパ諸国と比べれば、たしかに日本は年をとってからの生活が保障されていません。年金ですら今後受給されるかどうかが疑わしい状況です。
しかしながら、現在の日本では衣・食・住にこまるということはそれほどありませんし、高齢者になれば、例えば子供の教育費や交際費などに悩まされることは少なくなっているでしょうし、住宅ローンの返済が済んでいる人も多いでしょう。また、日本の高齢者の貯蓄率は世界一位だと言われています。
それならば、全員が、というわけにはいきませんが、ある程度お金に余裕のある人はボランティアを始めてみてはどうでしょうか。お金に余裕がある、と言い切れる人はそんなに多くないかもしれませんが、例えば、アルバイトというかたちで週に2~3日程度働けば充分にやっていけるという人は少なくないのではないかと思われます。
もちろん、私が提案するまでもなく、すでにボランティア活動をしている人は少なくありません。団塊世代(1947年から49年生まれ)の3人に1人はすでにボランティア活動をおこなっていることが、国立教育政策研究所がおこなったアンケート調査でわかりました。(報道は2007年8月14日の日本経済新聞)
この調査結果を詳しくみてみると、団塊世代でボランティアにかかわっている人は、全体では35.1%、男性33.6%、女性37.1%です。活動内容は、「町内会などの手伝い」が19.1%でトップ、「ゴミ拾いやリサイクル」「伝統芸能や祭りの指導」が続いています。
また、満足度については、「満足している」「やや満足している」を合わせると72.5%と高い数値を示しています。活動の意義については、「地域に役立つ」「ものの見方が広がる」「友人・知人ができる」などの意見が多いようです。
さて、再び西洋人に話を戻すと、タイのエイズ施設では多くの高齢の西洋人がボランティアをしています。それに対し、タイで会う日本人のボランティアの大半は若い人で、なかには「自分探し」のためにボランティアを試している、というような人もいます。それはそれで悪くはないと思いますが、若い人たちのボランティアはどうしても期間が短くなりがちで、この点が西洋人から批判されがちです。
先に、「ある程度お金に余裕があるなら、収入が得られる仕事は週に2~3回で・・・」という意見を述べましたが、「週に2~3回」ではなく、「半年間は週5日間働いて、残りの半年をボランティアに費やす」という選択肢があってもいいのではないかと思います。労働力があふれている社会では無理でしょうが、これからの日本のように「超高齢化」を迎える社会では、労働者側の売り手市場になりますから、そのような勤務形態も可能になるのではないかと私は考えています。
海外でのボランティアには、日本では体験できない楽しみがいくつもあります。まず、違う文化を知ることができますし、日本で得た知識や技術が現地の人から大変感謝されることもよくあります。それに、もうひとつ大きな楽しみがあります。それは世界中の人と仲良くなれることです。実際、私はタイに行くときの楽しみのひとつが、タイ人だけでなく、世界中から集まってきている人たちと交流がもてることです。(これはバックパッカーの経験がある人ならお分かりいただけるでしょう)
私個人の意見として、ボランティア以外のリタイア後の楽しみとして、語学の習得があります。若い頃は、英語以外の外国語を勉強するのは相当困難ですが(英語だけでもかなり大変!)、リタイア後なら時間にゆとりができるはずです。
語学の習得、海外でのボランティア、この2つは私自身がリタイア後に実践しようと考えていることでもあるのですが、私はこの2つを本格的にできることを考えると、今からリタイア後の人生が楽しみで仕方がありません。
私と同世代か、少し上の世代の人と話をしていると、「老いることへの恐怖」を持っている人が少なくありません。
しかし、リタイア後は、時間にゆとりがもてて、出費が減る分お金にも余裕ができますから、若い時代にできなかったことが楽しめるのです!
70歳まで連続勤務も悪くはないですが、残された人生を最大限に楽しむにはどうすればいいか・・・。その選択肢のなかに、海外でのボランティアと語学習得を入れてみるのはいかがでしょうか。
GINAと共に目次へ