GINAと共に
第 5回 アイスの恐怖(06年11月)
オーストラリアはアジアの一員である、と言えば(狭い意味の)アジア人にもオーストラリア人にも抵抗を示す人は少なくないでしょう。しかし、オーストラリアは確実にアジアの一員である、と言える領域があります。
それは、違法薬物の世界です。オーストラリアを含むアジア諸国(もちろん日本も含みます)で最も流通量が多い薬物が、大麻を除けば、覚醒剤とエクスタシー(MDMA)です。
一方、欧米諸国では、大麻以外には、エクスタシーの存在は無視できませんが、コカインやLSDが多いのが特徴です。覚醒剤の流通量はそれほど多くないと言われています。突然死に至ることも多いコカインとヘロインの合剤である通称「スピードボール」は欧米諸国で問題になっていますが、アジア諸国ではまだそれほど流通量が多くないと言われています。(最近の東京ではアメリカ大陸からの直輸入で若者に浸透しだしているという噂もありますが・・・)
覚醒剤はアンフェタミンとメタンフェタミンのことを指し、以前の日本では「シャブ」と呼ばれていましたが、最近ではイメージアップを図ってなのか、「スピード」「エス」などと呼ばれることが増えてきました。粉末や錠剤の他に、透明な結晶をしたものがあり、これは純度が高くアルミ箔に乗せて下から火であぶり気化させたものを吸入する摂取法がよくとられます。(この方法を「アブリ」と言います)
この結晶は、かたちが氷に似ていることと覚醒剤がキマれば身体が冷たくなっていく感覚があることから、ジャンキーたちには「アイス」と呼ばれています。
9月27日のNEWS.COM.AUが、アイスがオーストラリアの若い世代に浸透してきていることを報道しています。エクスタシー(MDMA)に代わって、アイスがパーティ・ドラッグの主役になりつつあるそうです。
国民薬物アルコール研究センター(National Drug and Alcohol Research Centre)は、オーストラリアの若者の間で、仲間と一緒にアイスを吸入する(アブる)のが流行しており、薬物シンジケートも最近は若者をターゲットにしていることを報告しました。
また、オーストラリア違法薬物委員会(ANCD、Australian National Council on Drugs)は、シンジケートが取り扱う違法薬物をヘロインからアイスに変えてきていると発表しました。
「我々は薬物シンジケートのマーケティング能力を過小評価している。彼らはアジア全域の若者をターゲットにしている」と、ANCDの幹部はコメントしています。
シンジケートはアジアの工場で大量に違法薬物を製造しているようです。最近、オーストラリア連邦警察(AFP)も加わっておこなわれた国際調査で、マレーシアのある場所でシャンプーを製造しているかにみせかけた工場で、一日に60キロものアイスが製造されていることが発覚しました。60キロのアイスは、末端価格にして270万オーストラリアドル(約2億4千万円)に相当するそうです。逮捕されたのは21人で、彼らはごく簡単に入手できる化学物質を原料にこの覚醒剤を製造していたそうです。また覚醒剤以外にも8万錠のエクスタシーも押収されたようです。
オーストラリア連邦警察のある幹部は言います。
「これは我々が知る限り世界最大の薬物工場である。今回押収したものはアジア太平洋全地域に流通する可能性のあるもので、オーストラリアも例外ではない。そして、最近では押収量が最も多いのがアイスである」
国民薬物アルコール研究センターの調査では、16歳から25歳の若者でアイスの吸入が流行していることが分かりました。
ある研究者は、「若者の多くは、エクスタシーやマリファナを経験し、やがてアイスに手を出し始める」、とコメントしています。
9月27日のNEWS.COM.AUは別の記事で違法薬物に関する二つのレポートについて報告しています。
ANCDによる調査で、アジア太平洋諸国13カ国で最も問題になっている薬物は、覚醒剤とエクスタシー(MDMA)であることが分かりました。
ANCDの代表者John Herron医師は、「我々は違法薬物がアジア太平洋地域の安定性を脅かしオーストラリアにも大きな影響を与える可能性を過小評価すべきでない。覚醒剤はすでにアジア太平洋諸国の若者の文化に溶け込んでいる」、とコメントしています。
ANCDは自国以外の状況についてもレポートしています。
「インドネシアが麻薬も含めた違法薬物の消費地のみならず中継地となっている。インドネシアのHIV陽性者の80%が違法薬物の静脈注射をする者で、タイでは毎年25,000人が新たな違法薬物のユーザーとなっている。アイスは現在のフィリピンの最もメジャーな違法薬物である」
もうひとつのレポートは、UNODC(国連薬物犯罪オフィス)によるものです。UNODCは覚醒剤(アイスを含む)がオーストラリアの路上で出回っていることを警告しています。
UNODCによりますと、オーストラリアでおこなわれた1999年から2000年、2004年から2005年のふたつの調査を比べると、薬物中毒が原因で入院となる者が56%も増加しています。薬物中毒者は攻撃的になり暴力をふるい救急医療の対象になることもあります。
覚醒剤に依存している人は世界で2,500万人にものぼり、そのうち6割以上は東南アジアと東アジアに住む人たちです。
覚醒剤の前駆体物質は容易に入手でき、精製はそれほどむつかしくありません。そして、国際間に流通させているのは若い世代であることをUNODCは指摘しています。
これらの記事には日本に関する記載がありませんが、日本はいまや世界有数のドラッグ天国です。そして、この記事にあるように、日本でも最も流通している違法薬物は覚醒剤とエクスタシー(MDMA)です。最近は覚醒剤の北朝鮮ルートが次第に減少してきており、数年前に比べると仕入れはやや困難になってきているという情報もありますが、アイスの入手しやすさは世界一と言う人は少なくありません。そのため日本人の元ジャンキーのなかには、怖くて日本に帰れないという人もいる程です。
アジア太平洋地域の先進国であるオーストラリアが国際捜査に加わりマレーシアの工場を摘発しているわけですから、日本もアジア全域に対する薬物撲滅政策を展開すべきではないでしょうか。それが、国内外に住む日本人を救うことになりますし、それ以前に、アジアのなかで日本が担うべき役割と責任は小さくないのですから。
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それは、違法薬物の世界です。オーストラリアを含むアジア諸国(もちろん日本も含みます)で最も流通量が多い薬物が、大麻を除けば、覚醒剤とエクスタシー(MDMA)です。
一方、欧米諸国では、大麻以外には、エクスタシーの存在は無視できませんが、コカインやLSDが多いのが特徴です。覚醒剤の流通量はそれほど多くないと言われています。突然死に至ることも多いコカインとヘロインの合剤である通称「スピードボール」は欧米諸国で問題になっていますが、アジア諸国ではまだそれほど流通量が多くないと言われています。(最近の東京ではアメリカ大陸からの直輸入で若者に浸透しだしているという噂もありますが・・・)
覚醒剤はアンフェタミンとメタンフェタミンのことを指し、以前の日本では「シャブ」と呼ばれていましたが、最近ではイメージアップを図ってなのか、「スピード」「エス」などと呼ばれることが増えてきました。粉末や錠剤の他に、透明な結晶をしたものがあり、これは純度が高くアルミ箔に乗せて下から火であぶり気化させたものを吸入する摂取法がよくとられます。(この方法を「アブリ」と言います)
この結晶は、かたちが氷に似ていることと覚醒剤がキマれば身体が冷たくなっていく感覚があることから、ジャンキーたちには「アイス」と呼ばれています。
9月27日のNEWS.COM.AUが、アイスがオーストラリアの若い世代に浸透してきていることを報道しています。エクスタシー(MDMA)に代わって、アイスがパーティ・ドラッグの主役になりつつあるそうです。
国民薬物アルコール研究センター(National Drug and Alcohol Research Centre)は、オーストラリアの若者の間で、仲間と一緒にアイスを吸入する(アブる)のが流行しており、薬物シンジケートも最近は若者をターゲットにしていることを報告しました。
また、オーストラリア違法薬物委員会(ANCD、Australian National Council on Drugs)は、シンジケートが取り扱う違法薬物をヘロインからアイスに変えてきていると発表しました。
「我々は薬物シンジケートのマーケティング能力を過小評価している。彼らはアジア全域の若者をターゲットにしている」と、ANCDの幹部はコメントしています。
シンジケートはアジアの工場で大量に違法薬物を製造しているようです。最近、オーストラリア連邦警察(AFP)も加わっておこなわれた国際調査で、マレーシアのある場所でシャンプーを製造しているかにみせかけた工場で、一日に60キロものアイスが製造されていることが発覚しました。60キロのアイスは、末端価格にして270万オーストラリアドル(約2億4千万円)に相当するそうです。逮捕されたのは21人で、彼らはごく簡単に入手できる化学物質を原料にこの覚醒剤を製造していたそうです。また覚醒剤以外にも8万錠のエクスタシーも押収されたようです。
オーストラリア連邦警察のある幹部は言います。
「これは我々が知る限り世界最大の薬物工場である。今回押収したものはアジア太平洋全地域に流通する可能性のあるもので、オーストラリアも例外ではない。そして、最近では押収量が最も多いのがアイスである」
国民薬物アルコール研究センターの調査では、16歳から25歳の若者でアイスの吸入が流行していることが分かりました。
ある研究者は、「若者の多くは、エクスタシーやマリファナを経験し、やがてアイスに手を出し始める」、とコメントしています。
9月27日のNEWS.COM.AUは別の記事で違法薬物に関する二つのレポートについて報告しています。
ANCDによる調査で、アジア太平洋諸国13カ国で最も問題になっている薬物は、覚醒剤とエクスタシー(MDMA)であることが分かりました。
ANCDの代表者John Herron医師は、「我々は違法薬物がアジア太平洋地域の安定性を脅かしオーストラリアにも大きな影響を与える可能性を過小評価すべきでない。覚醒剤はすでにアジア太平洋諸国の若者の文化に溶け込んでいる」、とコメントしています。
ANCDは自国以外の状況についてもレポートしています。
「インドネシアが麻薬も含めた違法薬物の消費地のみならず中継地となっている。インドネシアのHIV陽性者の80%が違法薬物の静脈注射をする者で、タイでは毎年25,000人が新たな違法薬物のユーザーとなっている。アイスは現在のフィリピンの最もメジャーな違法薬物である」
もうひとつのレポートは、UNODC(国連薬物犯罪オフィス)によるものです。UNODCは覚醒剤(アイスを含む)がオーストラリアの路上で出回っていることを警告しています。
UNODCによりますと、オーストラリアでおこなわれた1999年から2000年、2004年から2005年のふたつの調査を比べると、薬物中毒が原因で入院となる者が56%も増加しています。薬物中毒者は攻撃的になり暴力をふるい救急医療の対象になることもあります。
覚醒剤に依存している人は世界で2,500万人にものぼり、そのうち6割以上は東南アジアと東アジアに住む人たちです。
覚醒剤の前駆体物質は容易に入手でき、精製はそれほどむつかしくありません。そして、国際間に流通させているのは若い世代であることをUNODCは指摘しています。
これらの記事には日本に関する記載がありませんが、日本はいまや世界有数のドラッグ天国です。そして、この記事にあるように、日本でも最も流通している違法薬物は覚醒剤とエクスタシー(MDMA)です。最近は覚醒剤の北朝鮮ルートが次第に減少してきており、数年前に比べると仕入れはやや困難になってきているという情報もありますが、アイスの入手しやすさは世界一と言う人は少なくありません。そのため日本人の元ジャンキーのなかには、怖くて日本に帰れないという人もいる程です。
アジア太平洋地域の先進国であるオーストラリアが国際捜査に加わりマレーシアの工場を摘発しているわけですから、日本もアジア全域に対する薬物撲滅政策を展開すべきではないでしょうか。それが、国内外に住む日本人を救うことになりますし、それ以前に、アジアのなかで日本が担うべき役割と責任は小さくないのですから。
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