GINAと共に
第 4回 タイはもはや"微笑みの国"ではないのか(06年10月)
タイが"微笑みの国"(Land of Smiles)と呼ばれたのはもう昔のことなのかもしれません。
最近の世界のメディアの報道をみていると、タイの評判を下げるようなものが目立ちます。違法薬物が急速に市場に出回り、買春目的でタイに渡航する外国人が増え、さらにはタイがペドフィリア(小児愛)や人身売買の拠点になっているという報道もあります。
2003年に、当時の与党、タイ愛国党が「薬物一掃運動」を開始しました。それまでのタイは、あらゆるドラッグが簡単に安く入手できたことから「ドラッグ天国」とまで言われていましたが、政府の徹底した対策により数千人のドラッグ密売人が射殺されたことなどもあり、わずか1~2年の間に違法薬物が入手しにくいクリーンな国となりました。自国の方がよほど簡単に薬物を入手できることに気付いた日本人ジャンキーが次々と帰国を始めたという噂もあります。(ただ、タイ愛国党のこの政策は多数の冤罪者を射殺しており、プミポン国王がタクシン前首相に好意をもっていなかった理由のひとつであると言われています)
ところが、2006年4月2日の総選挙後、タクシン首相が一線を退くようになると、薬物使用者が急増しだしました。
タイ警察は現在も薬物対策に力を入れていますが、使用者は増える一方のようです。9月19日に起こったクーデターによりタクシン首相は失脚し政権交代がおこなわれます。今後の政府の対策に期待したいところですが、タクシン政権がおこなったほどの強攻策はとれないであろうとの見方が強く、今後ますます薬物犯罪が増えていく可能性があります。
買春目的でタイに来る外国人も増えてきています。これを裏付けるのが、「先進国でHIV感染が増えている大きな理由がタイでの売春である」、ということです。このウェブサイトで何度も取り上げているように、フィンランド、オーストラリア北部、マレーシアのケランタン州、ジャージー島などでは、タイの売春婦から感染する者が増えていることが問題である、という見解が発表されています。
児童買春については、数年前までは、「タイではもはや児童買春はない。小児愛者(pedophile)はカンボジアなど他国に棲息している」、と言われていました。ところが、最近では、児童買春を目的としたタイ滞在者が少なくなく、パタヤの児童買春の常連客は200~300人もいるとする報告もある程です。
最近、アメリカのあるニュース局が「小児愛者のパラダイス?(Paedophile Paradise?)」というタイトルで、タイの児童買春の現状を報告しました。このような番組がつくられた背景には、ジョン・カーという名のアメリカ人が、当時6歳の女の子ジョンベネ・ラムゼーちゃんを殺害した犯人としてタイで逮捕されたという事件があったからだと思われます。
結果としては、カー氏は犯人ではなかったのですが、この事件が報道されたときのマスコミの報道は、舞い上がって騒ぎすぎていたように思われます。まるで、「やっぱり小児愛者はタイに集まるんだ」、と言わんばかりの報道でした。
カー氏が逮捕されたときに宿泊していたのは、バンコクのサトーンと呼ばれるエリアにあるブルームス(The Blooms)というホテルですが、あるマスコミは、「買春客が棲息する悪名高き卑しきホテル(a notorious, grubby haunt for sex tourists)」と報道し、「近くにはマッサージ・パーラー(ソープランド)が乱立し母国を捨ててタイに来た外国人と買春客が集う旅行代理店が集中している(neighbourhood of massage parlours and travel agents that cater to expatriate residents and sex tourists)」というものもあったようです。
証拠が充分にそろっていないにもかかわらずカー氏が逮捕されたのは、「このホテルに宿泊しているのだから小児愛者に間違いない」、と捜査官に思われたことが原因のひとつかもしれません。
しかし、こういった報道はもちろん行き過ぎていますし正確ではありません。まともな人もこのホテルを利用するでしょうし、近くにマッサージ・パーラーがあるからといって誰もがそのような場所にいくわけではありません。
マスコミの報道はときに偏ったものになりがちです。アメリカのこのニュース局の番組をみた世界中の小児愛者が今後タイにやって来るようなことがあれば、このニュース局はどうやって責任を取るのでしょうか。このニュース局だけではありません。タイが「薬物天国」「買春天国」「児童買春のパラダイス」などと報じているマスコミやウェブサイトは日本も含めて世界中に数多く存在します。
2006年9月23日のBangkok Postに、あるイギリス人の男性が「Sex and this city」というタイトルでコメントを載せています。その男性は、イギリスに帰国した時に、周囲に「普段はタイで働いている」と話すと、「ズルイやつ(sly dog)」と言われたり、タイに住んでいること自体を非難されたりするそうです。タイに住むのは買春目的だと思われているのです。
この男性は、かつてカンボジア人と恋に落ちたことがあるらしいのですが、それを西洋人に話すと、「あなたは売春婦が好きなの?」と言われることがあるそうです。アジアの女性は皆売春婦だと思っている西洋人は少なくないそうなのです。
これには同じアジア人として私は激しい憤りを感じます。たしかに、タイやカンボジアの夜の店で働く多くの女性が売春をしているのは事実でしょうし、児童買春が増えていることも問題です。しかし、だからといってすべての女性を売春婦とみなすなどというのは言語道断です。
タイとは本来、美しい自然と絶品の料理が楽しめて、人々が笑顔を絶やさず外国人にも優しく接してくれる、大変魅力的な国なのです。タイに観光に来る女性は少なくありませんし(男性を買いに来る女性がいるのも事実ですが・・・)、カップルの旅行先としてもタイは人気があります。新婚旅行でタイを選ぶ人も少なくないでしょう。
偏ったマスコミの報道のせいで、健全な目的でタイに観光に来る人が減少し、そして薬物や買春目的でタイを目指す輩が増えることを私は懸念しています。
タイが"微笑みの国"であり続けるためには、マスコミやウェブサイトの表現が鍵を握ります。薬物や買春に走る輩の興味を引くような表現は避け、タイ国やタイ人でなくそういった輩たちこそが卑下されるべき対象であることを伝えていくのがマスコミやウェブサイトの使命であるはずです。
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最近の世界のメディアの報道をみていると、タイの評判を下げるようなものが目立ちます。違法薬物が急速に市場に出回り、買春目的でタイに渡航する外国人が増え、さらにはタイがペドフィリア(小児愛)や人身売買の拠点になっているという報道もあります。
2003年に、当時の与党、タイ愛国党が「薬物一掃運動」を開始しました。それまでのタイは、あらゆるドラッグが簡単に安く入手できたことから「ドラッグ天国」とまで言われていましたが、政府の徹底した対策により数千人のドラッグ密売人が射殺されたことなどもあり、わずか1~2年の間に違法薬物が入手しにくいクリーンな国となりました。自国の方がよほど簡単に薬物を入手できることに気付いた日本人ジャンキーが次々と帰国を始めたという噂もあります。(ただ、タイ愛国党のこの政策は多数の冤罪者を射殺しており、プミポン国王がタクシン前首相に好意をもっていなかった理由のひとつであると言われています)
ところが、2006年4月2日の総選挙後、タクシン首相が一線を退くようになると、薬物使用者が急増しだしました。
タイ警察は現在も薬物対策に力を入れていますが、使用者は増える一方のようです。9月19日に起こったクーデターによりタクシン首相は失脚し政権交代がおこなわれます。今後の政府の対策に期待したいところですが、タクシン政権がおこなったほどの強攻策はとれないであろうとの見方が強く、今後ますます薬物犯罪が増えていく可能性があります。
買春目的でタイに来る外国人も増えてきています。これを裏付けるのが、「先進国でHIV感染が増えている大きな理由がタイでの売春である」、ということです。このウェブサイトで何度も取り上げているように、フィンランド、オーストラリア北部、マレーシアのケランタン州、ジャージー島などでは、タイの売春婦から感染する者が増えていることが問題である、という見解が発表されています。
児童買春については、数年前までは、「タイではもはや児童買春はない。小児愛者(pedophile)はカンボジアなど他国に棲息している」、と言われていました。ところが、最近では、児童買春を目的としたタイ滞在者が少なくなく、パタヤの児童買春の常連客は200~300人もいるとする報告もある程です。
最近、アメリカのあるニュース局が「小児愛者のパラダイス?(Paedophile Paradise?)」というタイトルで、タイの児童買春の現状を報告しました。このような番組がつくられた背景には、ジョン・カーという名のアメリカ人が、当時6歳の女の子ジョンベネ・ラムゼーちゃんを殺害した犯人としてタイで逮捕されたという事件があったからだと思われます。
結果としては、カー氏は犯人ではなかったのですが、この事件が報道されたときのマスコミの報道は、舞い上がって騒ぎすぎていたように思われます。まるで、「やっぱり小児愛者はタイに集まるんだ」、と言わんばかりの報道でした。
カー氏が逮捕されたときに宿泊していたのは、バンコクのサトーンと呼ばれるエリアにあるブルームス(The Blooms)というホテルですが、あるマスコミは、「買春客が棲息する悪名高き卑しきホテル(a notorious, grubby haunt for sex tourists)」と報道し、「近くにはマッサージ・パーラー(ソープランド)が乱立し母国を捨ててタイに来た外国人と買春客が集う旅行代理店が集中している(neighbourhood of massage parlours and travel agents that cater to expatriate residents and sex tourists)」というものもあったようです。
証拠が充分にそろっていないにもかかわらずカー氏が逮捕されたのは、「このホテルに宿泊しているのだから小児愛者に間違いない」、と捜査官に思われたことが原因のひとつかもしれません。
しかし、こういった報道はもちろん行き過ぎていますし正確ではありません。まともな人もこのホテルを利用するでしょうし、近くにマッサージ・パーラーがあるからといって誰もがそのような場所にいくわけではありません。
マスコミの報道はときに偏ったものになりがちです。アメリカのこのニュース局の番組をみた世界中の小児愛者が今後タイにやって来るようなことがあれば、このニュース局はどうやって責任を取るのでしょうか。このニュース局だけではありません。タイが「薬物天国」「買春天国」「児童買春のパラダイス」などと報じているマスコミやウェブサイトは日本も含めて世界中に数多く存在します。
2006年9月23日のBangkok Postに、あるイギリス人の男性が「Sex and this city」というタイトルでコメントを載せています。その男性は、イギリスに帰国した時に、周囲に「普段はタイで働いている」と話すと、「ズルイやつ(sly dog)」と言われたり、タイに住んでいること自体を非難されたりするそうです。タイに住むのは買春目的だと思われているのです。
この男性は、かつてカンボジア人と恋に落ちたことがあるらしいのですが、それを西洋人に話すと、「あなたは売春婦が好きなの?」と言われることがあるそうです。アジアの女性は皆売春婦だと思っている西洋人は少なくないそうなのです。
これには同じアジア人として私は激しい憤りを感じます。たしかに、タイやカンボジアの夜の店で働く多くの女性が売春をしているのは事実でしょうし、児童買春が増えていることも問題です。しかし、だからといってすべての女性を売春婦とみなすなどというのは言語道断です。
タイとは本来、美しい自然と絶品の料理が楽しめて、人々が笑顔を絶やさず外国人にも優しく接してくれる、大変魅力的な国なのです。タイに観光に来る女性は少なくありませんし(男性を買いに来る女性がいるのも事実ですが・・・)、カップルの旅行先としてもタイは人気があります。新婚旅行でタイを選ぶ人も少なくないでしょう。
偏ったマスコミの報道のせいで、健全な目的でタイに観光に来る人が減少し、そして薬物や買春目的でタイを目指す輩が増えることを私は懸念しています。
タイが"微笑みの国"であり続けるためには、マスコミやウェブサイトの表現が鍵を握ります。薬物や買春に走る輩の興味を引くような表現は避け、タイ国やタイ人でなくそういった輩たちこそが卑下されるべき対象であることを伝えていくのがマスコミやウェブサイトの使命であるはずです。
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