GINAと共に

第34回 カリフォルニアは大麻天国?!(2009年4月)

 昨年(2008年)秋ごろから、日本全国で、大麻取締法で逮捕という事件が増えてきています。いっときのように芸能人や有名人の逮捕報道は少し減少したように思われますが、代わって大量販売や栽培のニュースが増えてきているように感じます。

 今月(2009年4月)には、大阪市住之江区の住宅ビルの一棟が「大麻製造工場」として機能しており、大量の大麻が栽培されていたことが大阪府警薬物対策課によってあきらかとなりました。この「工場」では末端価格で5億円もの大麻が栽培されていたそうです。(報道は2009年4月7日の日経新聞)

 群馬県では、ベトナム人3人が住宅街の木造二階建住宅で鉢植えの大麻草約160本を栽培していたことが群馬県警の調査で発覚しました。このベトナム人らは木造の民家に通常より太い電気配線を引き込んでいたことが発覚のきっかけになっています。大麻を栽培するには適切な光、温度、水などが必要になりますから、家庭用の40から50アンペア程度の配線では充分でなく、そのため240アンペアに対応できる配線工事をしていたそうです。(報道は4月18日の読売新聞)

 さて、大麻は依存性は強くないものの、違法薬物の入り口となることが多く、大麻をきっかけに覚醒剤(もしくは麻薬)の使用、初めはアブリ、その後静脈注射、HIVを含む感染症のリスク、という話はこのウェブサイトでも何度もおこなってきました。私なりに大麻はキケンということを訴えてきたつもりですが、最近この私の考えにまったく矛盾する社会状況になりつつある地域があります。

 それは、カリフォルニアです。

 2009年4月12日のWashington Postによりますと、現在、カリフォルニア州では「医療用大麻」が、なんとほとんど誰でも簡単に入手できるようなのです!

 「医療用大麻」について解説しておきます。大麻はいくらかのリラックス(鎮静)作用があります。痛みのある患者さんに対しては鎮痛作用もあると言われています。またジャンキーたちがよく言うように、大麻が食欲を亢進させるのは事実です。ですから、食欲不振や嘔気(吐き気)のある人が大麻を吸入すれば食欲がでてくることがあります。

 したがって、例えば、ガンの末期で痛みがありご飯が食べられないような状況であったり、エイズの症状を発症しているような状態であったりすれば、大麻にはいくらかの症状改善を期待できると思われます。実際、ガンやエイズの末期に大麻を使用するという治療は、異論はあるものの世界のいくつかの地域でおこなわれています。

 ところが、今回Washington Postが取り上げているカリフォルニアの現実は、一応は「医療用大麻」となっていますが、記事をよく読めば、"ほとんど誰でも簡単に入手"できることがわかります。

 記事によりますと、カリフォルニアに住民票があり21歳以上であれば、医者を受診し150ドル(約1万5千円)を払って「医師の推薦状(physician's recommendation)」をもらうことができます。後は薬局で大麻を購入するのみです。

 医者を受診するのに、ガンやエイズを患っている必要はありません。眠れない、食欲がない、背中が痛い、ひざが痛い、・・・、そのような理由で医師は推薦状を書いてくれるというのです。

 薬局も大麻の調剤を収入源にしているようです。「LA Journal of Education for Medical Marijuana(医療用大麻の教育雑誌)」というタブロイド紙には、カリフォルニアで営業する400以上の薬局が扱っている「マジック・パープル」や「ストロベリー・カフ」、その他の商品の広告が、多くのページに掲載されているそうです。

 この記事を読んでぞっとしたのは私だけでしょうか。大麻の種類に「マジック・パープル」とか「ストロベリー・カフ」という親しみやすい名前が付けられ、タブロイド紙に広告が載せられているというのです。これではまるで新しく発売されたチョコレートのような扱いではないですか!

 周知のようにアメリカ合衆国という国は連邦制をとっています。連邦法もありますし、それぞれの州にも州法という法律があります。大麻に関しては、カリフォルニア州法に従って合法的に(医療用)大麻を所持できたとしても、連邦法では所持すること自体が禁止されていますから違法になります。ところが、Washington Postによりますと、今後DEA(米連邦麻薬取締局)は、(医療用)大麻に対して強制捜査をおこなわないそうです。

 カリフォルニア州がここまで大麻を受容するようになったのはなぜでしょうか。記事によりますと、ひとつには同州の財政の問題があります。関係者によりますと、カリフォルニア州全体での大麻のマーケットは140億ドル(約1兆4千億円)あり、現在1千8百万ドル(約18億円)の税収入があり、今後13億ドル(約1,300億円)にもなる見込みがあるそうです。

 ここまでくれば行政が積極的に大麻の使用を促しているようにすら感じられます。一方で、日本を含めたほとんどの国では大麻は違法なのです。オランダやインドの一部の州で大麻が合法なのは、昔からよく知られていたことでありますが、それらの地域は"例外"とみなされていると思われます。

 しかし、カリフォルニア州でもこのように事実上ほとんど誰もが大麻を入手できるようになったのであれば、大麻は本当に使用すべきでないのか、あるいは使用してもいいのか、について改めて議論すべきではないでしょうか。

 私自身の個人的意見としては大麻に反対ですが、その最大の理由は「他の危険な違法薬物の入り口となることが多いから」というものです。しかし、実際には、他の危険な違法薬物に手を出すことなく"上手に"大麻と付き合っている人が少なくないのも事実です。

 このWashington Postの記事によりますと、アメリカでは1億人以上が生涯のうちに一度は大麻を経験し、2,500万人は過去1年以内に使用しているそうです。ということは、(アメリカの人口は約3億1千万人ですから)、全人口の3人に1人が生涯で一度は大麻を使用し、12人に1人は過去1年以内に使用していることになります。

 大麻を禁じている法律は世界中でいくつもありますが、実際には多くの人が大麻を使用しているのが現実で、国や地域によっては堂々と使用できるというわけです。

 いったい大麻はどれだけ医学的に有益性があるのか、また大麻を使用することによって健康被害はどれくらい起こりうるのか、依存性や中毒性については実際のところどうなのか、もしも一定のルールの下で使用可能とするのであれば、適正な使用量はどれくらいなのか、医療用として使う場合、適応となる症状や疾病はどのようにすべきなのか、「眠れない」「嘔気がする」といった確認しようのない症状を訴えた症例に対して全例処方すべきなのか、健康保険は使用可能とすべきなのか、健康保険が使えたとしても使えなかったとしても適正価格というのはどれくらいなのか、その他起こりうる問題としてどのようなことが想定されるのか、・・・。

 我々は、このようなことを世界規模で検討すべき地点にまで来ているのではないでしょうか・・・。

参考:
GINAと共に 第29回(2008年11月)「大麻の危険性とマスコミの責任」

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