バーンサバイニュースレター最終号


バーンサバイニュースレター最終号
 

バーンサバーイを引き継ぐにあたって ― サナン・ウッティ


2010年7月1日より、バーンサバーイの運営を行うことになりましたサナン・ウッティと申します。私はタイキリスト教団(CCT)の牧師であり、現在CAM(タイキリス ト教団エイズミニストリー)で働いています。 CAMの仕事を通じ、15年にわたり、エイズ問題にたずさわってきました。CAMとバーンサバーイは、バーンサバーイの開設当初から協力関係があります。そし私自身もバーンサバーイ財団の理事長をさせていただいております。このような経緯から、このたびバーンサバーイの運営を全面的に引き受けることになりました。 私たちが関与していますエイズという病気はかなりデリケートであり、とくに一部のHIV感染者の方たちは、自分のこと をカミングアウトしたり、人前に出たりすることができないこともあったりします。したがって私たちの活動のターゲットとなる方たちは、多様であると言えます。 このような状況をふまえ、今後のバーンサバーイの活動は、従来バーンサバーイが行ってきた事業を引き継ぎ、さらにあたらしい活動も加えて運営をしていくことになります。
今後は以下の内容で、進めたいと考えております。
1) HIV感染者/エイズ患者およびカミングアウトをして影響を受ける人たちの支援をしていきます。また、まだカミングアウトできない人たちも集まって話し合いをしたり、さまざまな活動に気軽に参加できる環境を提供します。
2) 学習・研修センターとして家庭、地域社会、政府及び民間機関のさまざまな部署に対して知識、援助及び介護経験を広める活動をします。そして、タイ国内外より広く見学者や研修生を受け入れ、活動の見学及び学習などを多様な形態で行います。
3)電話相談
4)家族や身寄りがいない方々、帰る家のない方々が心身ともにある程度回 復されて、家族や地域社会へ戻って通常の生活が送れるようになるまで の一時的な受け入れを行います。
5) Asia Interfaith Network on AIDS (ANA)(アジアエイズ宗教者ネットワーク)は、 アジアキリスト教団(CCA) の活動の1つでありますが、バーンサパーイ内にこの事務所をおきます。 AINAは宗派を越えてエイズ問題を解決するという目的で作られ、キリスト教、イスラム教、仏教、ヒンズー教が協力関係にあります。
6)将来、他の機関や組織の方にバーンサバーイを利用してもらい、活動に 対する寄付や支援を促すのにも役立つように、敷地内に会議室、宿泊施 設を設ける予算を募りたいと考えています。
7月からは、上記の活動を基本として、運営を続けていく所存でおります。また、今後の活動に関して、タイキリスト教団からも支援を受けることになっており、今年度の支援金として、40万パーツの寄付を受けることも決まりました。日本の皆さまにも、引き続きご支援をいただきたく。今後ともよろしくお願いいたします。
(CCTエイズミニストリーコーディネーター /バーンサバーイ理事長)
翻訊;江藤尚美
文責;早川文野

マリ通信(2009年11月〜2010年4月入療状況)  ― 早川文野


今年の晩夏はとても暑く、毎日気温が40度を越えています。例年でしたら、もう雨季に入るのですが、今年は遅いようです。これほど暑さが続きますと、体力を消耗しますので、体調に気をつけなければなりません。 さて、2009年11月から2010年4月までの入寮者は、10名(男性6名、女性4 名)でした。そして、残念なことですが1名の方が他界されました。入寮者の方に最初に出会う時、いつも元気で門を出て行ってほしいと思います。しかし、この願いがとどきませんでした。バーンサバーイに入寮される方はかなり重症な方が多いため、1人1人の回復に1年以上の時間が必要です。私が6月いっぱいで辞職しますので、新しい方を受け入れても、 途中でケアの方法が変わりますと、かえって入寮者の方を混乱させてしまいます。そのため、今年に入ってからは新しい方は受け入れず、今までかかわってきました退寮者の方の自立に重点をおいて、 サポートをしました。
※Jさん(女性、47歳)
Jさんは、ビルマで生まれた、アカ族の 女性です。ビルマが軍事政権になった時に、タイへ来ました。Jさんだけではなく、バーンサバーイへ入寮するビルマからの移住者は、軍事政権になってからタイへ来た方が、かなり多くみられます。民衆の生活というものが、政治や社会の状況と密接に結びついて、その影響を受けているということを感じます。 Jさんは10代で同じアカ族の男性と結婚しました。夫は浮気性で、麻薬もやり、あまり働くことをしない人でした。そのため、Jさんは妊娠中も出産間近まで建設現場で働き、出産後もすぐに仕事をするという生活だったそうです。Jさんは2人の子どもを生みましたが、長男は子どもの時に、熱病にかかり死亡しました。山間部の小さな村でしたので、病院にも行けず、病名もわかりませんでした。その後タイへ来てから、長女を出産し、彼女は現在17歳です。
タイへ来てからも、Jさんはいろいろな仕事をしながら生活をしていましたが、夫は相変わらず仕事をしませんでした。 そして、数年前エイズを発症し、他界しました。2年前、Tシャツを作る工場で働いていた時に、29歳の男性と知り合い、同居するようになりました。彼は、お酒を飲むのが大好きで、お酒を飲むと愚痴っぼくなりますが、それ以外はまじめで、Jさんにもとてもよくしてくれます。昨年の7月に、体調が悪くなり、高熱、幅吐が続き、2ヶ月間入院しました。そこで、エイズを発症していることを告知されました。そして、トキソプラズマ脳症と結核も併発していました。まったく歩くことができず、恋人や長女が看病をしました。退院後は、Jさんが通う教会の牧師の家で静養していましたが、心身ともになかなか回復しないため、エイズ関係のNGOから電話があり、バーンサバーイへ入寮しました。入寮の日は、Jさん、長女、教会の牧師、以前バーンサバーイに入寮したことのあるサポートグループのボランティアに送られて来ました。体重は35Kgしかありません。歩き方も、カがなく、危なげです。抗HIV薬の他、結核、トキソプラズマ脳症、てんかんの薬も服用しているため、理解力に少し欠けるJさんは、薬の量を間違ったり飲み忘れたりすることが、多々あることがわかりました。これは、非常に危険ですから、まず処方されている薬が、どのような薬かを説明し、時間をきちんと守って飲むことを習慣づけることから始めました。最初はスタッフがビルケースに薬を入れるのを見てもらい、徐々にJさんが自分で行うようにしていきました。
薬をきちんと飲む習慣がつくまで、3ヶ月ほどかかりましたが、退寮する時には自分でできるようになりました。昨年末には下病と頭痛が止まらず、1週間入院し菌は出ていませんが、結核があるため体調を崩したようです。退院後は食欲も出てきて、体重も40kg近くまで増加しました。入寮時33だったCD4も、120を超え、少しずつ回復していきました。
敬度なクリスチャンのJさんは、毎日聖書を読み、賛美歌を歌って過ごしていました。彼女の恋人は休日の午後は必ず、お見舞いに来ます。
そして2人で談笑する姿は、微笑ましいものでした。バーンサバイの入寮者は家族関係が壊れている方が多いですが、Jさんには退寮しても支えてくれる恋人や長女がいますので、安心です。Jさんは4ヶ月間入寮し、薬の飲み方が身につき、体カ・気力も戻ってきましたので、2月初旬に退寮しました。入寮中に長女が子どもを出産し、Jさんはおばあちゃんになりました。Jさんから長女、長女から孫へと生命がつながり、生命力の強さを感じました。先日、彼女から元気な声で電話があり、「ごはんがとても美味しくて、太ったのということでした。順調に回復している様子が、私たちにとっては何よりの贈り物です。

2002年7月7日に、青木牧師と2人でバーンサバーイを立ち上げてから、8 がたとうとしています。開設した頃は、まだ抗HIV薬が高額で、大部分の方々は服用できませんでした。そのため、どうやって薬代を捻出するか、頭を痛めました。その後、30バーツ診療制度が施行され、1回の診察料が30パーツですみ、日和見感染症の薬も処方されるようになりました。そして、さらにこの30バーツ診療の無料化にともない、抗HIV薬も無料にな り、これを機に抗HIV薬を服用できる層が拡大しました。このような状況の変化の中で、エイズ患者/HIV感染者が、2極分解する傾向が出てきました。つまり、この医療サービスを受けられる人々と、サービスからもれる人々の分離が進んだ訳です。抗HIV薬を服用し元気になる層と治療を受けられず、重症になる層ができてしまいました。このような状況を受けて、バーンサバーイに入寮される方たちも、変化しました。初期の頃は、タイ人が多く入寮しましたが、30バーツ診療の普及にともない、周辺諸国からやって来る移住労働者や少数民族が多くなりまし た。彼らはタイ国民ではありませんので、30バーツ彩療制度の対象外の方たちです。そして、入寮される方の症状も、重症化してきました。タイでもエイズは死ぬ病気ではなくなりつつありますが、バーンサバーイで出会う方々は、まだまだ死 と隣り合わせの方も少なくありません。生命の重さは皆等しいはずなのですが、どこに生まれるかでその重さが異なるという現実があります。 バーンサバーイでは、この8年間で、8 0名(女性52名、男性28名)の方が入寮し、27名の方が他界しましたが、53名の方たちは元気で生活しています。しかし、もともと問題のある方々ですから、退寮後の生活も決して平安なものではありません。バーンサバーイの退寮者の多くが タイ人ではなく、またタイ人であっても読み書きができない状態ですので、仕事を 見つけるのが困難な場合が多い状況です。かりに仕事が見つかったとしても、労働条件があまり良くありません。そして、1つの仕事を長続きすることができない場合もしばしばあります。その結果、盗みや麻薬の売買などの罪で、逮捕され服役する退寮者も出てきました。そのため、元気になった方々のための職業訓練と仕事の提供の重要性を痛感しています。せっかく元気になっても、生活手段がなければ生きることに後ろ向きになったり、健康状態も不安定になります。
今後、元気になったエイズ患者/HIV感染者の雇用について、大きな課題が残っています。 また私たちがかかわってきた方たちは、生まれた時から複雑な問題の渦中で育っています。その過程で、数10年かけて形成されてきた性格や行動形態が、簡単には変わりません。少しづつ積み重ねていくしかありません。そして私たちの活動はプラスの面ばかりではなく、マイナスの面も合わせ持ちます。長くかかわる中で、ここ数年、退寮者の中に、バーンサバーイに対する甘えが見えるようになりま した。これは私たちのかかわり方にも責任があります。病気の方が対象ですから、具合が悪くなるとどうしてもまたサポートをします。何度か繰り返す間に、依存度が高くなってくる傾向が出てきました。本来バーンサバーイの入寮者の方々は、 過酷な状況を生き抜いて来ましたので、底力を持っています。しかし、何かあったら、バーンサバーイに行けばいいとい う姿勢が見え、その結果生き方に安易さが見られるようになってきました。私たちはエイズであろうとなかろうと、自分自身の力で生きていかなければなりませんし、それが人間としてのあるべき姿なのではないでしょうか。非常に弱っている時は仕方ないですが、元気になったならば自分の足で歩いてほしいと願います。バーンサバーイの存在が本来の生きる力を弱めているのではないかという懸念を持つようになり、一度距離をおいてみることも必要ではないかと考え、バーンサバーイを辞する決心をしました。いつかはタイ人の手に委ねようと考えていましたので、バーンサバーイの理事長であるサナン牧師にお願いをし、快諾していただきました。今後の運営はタイ人によって進められますが、日本人の私たちが薄いた種を、タイ人の手で育てていっていただきたいと願っています。
このチェンマイで2900日以上の日々を重ねましたが、毎日が綱渡りで、ここで来られたのが奇跡です。力のない私たちですが、たくさんの方たちに助けていただき、ここまで続けることができました。私たちスタッフが実際的なケアをさせていただきましたが、さまざまな場所からさまざまな形で支えていただき、バーンサバーイという「家」ができたと思います。お1人お1人の思いが、このバーンサバーイに力を与えて下さり、それが入寮者の生命へとつながりました。毎日試行錯誤をくり返し、失敗と反省の連続でしたが、私はこのバーンサバーイという場を通して、人間のしなやかさ、たくましさ、弱さ、醜さ、そして美しさを学ぶことができました。
今までバーンサバーイを支えていただきましたお1人お1人に対し、心より感謝いたします。8年間ありがとうございました。 皆さま、どうぞお体を大切にお過ごし下さい。
(バーンサバーイディレクター)

バーンサバーイを支援して下さっている皆さま   青木恵美子


前回のニュースレター15号で報告しましたように、この度「バーンサバーイ」はサナン牧師に引き継いでいただくことになりました。私は2009年の2月に体調を崩し日本に帰ってきたのですが、その後チェンマイに帰るものとディレクターの早川さんを始め、「バーンサバーイ」は私を待ってくれていました。しかし、私はもう一度チェンマイに帰って仕事をする自信が持てず、去年の11月に大阪府高槻市にある老人ホームに入居し、今にいたっています。 長い間皆さまから御支援いただき、その御支援のお陰で「バーンサバーイ」は運営されてまいりました。元気になって自立 していった患者、病気と闘って頑張ったのに天に召されてしまった患者、そんな一人一人の顔が今も目に浮かびます。そんな一人一人も皆さまにどんなに感謝しているか知れません。本当にありがとうございました。今、現在も「バーンサバーイ」で病気と闘っている患者たちをサナン牧師に「どうぞ、どうぞよろしくお願いします」と祈りつつ、お願いするのみです。必ずや神が「バーンサバーイ」を祝福し、必要を満たして下さると信じています。神が 二人一人の患者を愛しておられたから早川さんと私に「バーンサバーイ」を建ち上げさせられたのだと信じています。
長い間の御支援を心から感謝し、皆さまお一人お一人に神よりの祝福が豊かにありますように祈りつつ、ペンをおかせて頂きます。
(バーンサバーイスタッフ)